今大会、印象に残るシーンは人それぞれだろうが、3回戦の仙台育英・大阪桐蔭戦で物議を醸したプレーについて、私見を述べてみたい。
改めて事実を並べると、以下のようなプレーだった。「育英7回裏の攻撃、ノーアウトランナー無し、カウント1ボール2ストライクからの4球目、バッターはボテボテのショートゴロ、ショートが1塁送球、打者走者が1塁を駆け抜けた際左足が桐蔭一塁手の右足と接触、一塁手は一時退場を余儀なくされた(その後一塁手はプレーに復帰)。」
以下、このプレーを「一塁接触事件」と呼ぶこととする。
この後試合は、周知の通り劇的結末を迎える。桐蔭1点リードの9回裏育英の攻撃、2アウト1塁・2塁からショートゴロ→1塁送球→ゲームセット・・・のはずが、桐蔭1塁手ベース踏み遅れで打者走者がセーフ、続く2死満塁から次打者のサヨナラヒットで育英逆転サヨナラ、である。
「一塁接触事件」がその後ネット上で問題となったのは、接触した育英の選手の左足の動きが不自然に見えるため故意に接触したのではないか。またこのプレーが9回裏桐蔭一塁手の一塁踏み遅れにつながり、育英逆転サヨナラの遠因となったのではないか、と言われたためである。
ネット上でいろいろ言われているが、まず育英の打者走者が「わざと」接触したかどうかは議論の意味が無い。結局、真実は本人にしかわからないからである。また、この「一塁接触事件」が桐蔭の敗因というわけでもない。桐蔭としては、ケガを理由に一塁手を交代する(実際、この一塁手は試合後車椅子で球場を後にした)、9回裏ショートゴロの際ショートが二塁でフォースアウトを狙う、という回避策もあった。つまり、一塁手のケガの状況をチーム内で正しくシェアできていれば、桐蔭の勝利で終わっていた可能性が極めて高いのである。
本件で見逃してはならないのは、この「一塁駆け抜け事件」が打者走者・一塁手双方にとって危険なプレーであり、再発対策が必要であるということである。よく見かける一塁での接触というのは、内野ゴロの際一塁手への送球が逸れた結果、一塁手と走者がぶつかるというものである。しかし、今回のプレーはごくごく普通の内野ゴロ→一塁送球の結果起きた。守備側に非は無い。よって、何らかの形で走者側の対応を変更すべきということになる。
結論としては、「打者走者は、一塁手との無用な接触を避けるためファールグラウンドに駆け抜ける」ことを走者のマナーとし、「ファールグラウンドに駆け抜ける意志が無いと審判が判断した場合、アウト宣告も可」とルールを変更すべきではないか。投球が打者に当たった際、打者によける意志が無いと審判が判断した場合、デッドボールにならないのと同じ理屈である。
一塁駆け抜けについて、野球を少しでもかじったことがある人間は、「フェアグラウンドに駆け抜けるとタッチアウトの可能性があるため、打者走者はファールグラウンドに駆け抜けるべき」という認識がある。しかしこれは間違いで、駆け抜ける場所がどこであれ二塁に進塁する意志があるかどうか(を一塁塁審がどう判断したか)でタッチアウトの対象となるかが決まる。野球強豪校の監督・選手ともなれば、間違いなくこのルールを知っているだろう。
一方で、一塁への送球が逸れ一塁者がボールを後ろに逸らした場合、打者走者は当然二塁進塁を狙う。このプレーは甲子園でも頻繁に見られるので、地方大会では頻発しているはずだ。二塁進塁を狙うためには、打者走者は一塁を駆け抜けた後、少しでも二塁に近い位置にいたいのである。
今回の「一塁駆け抜け事件」をVTRで何度も見たが、打者走者はファールライン上を一直線に一塁を駆け抜けていった。一塁手と接触しても何ら不思議はないプレーであり、ルール上は問題ないが野球選手としてマナー認識に欠けるプレーだった、ということだろう。
一方で、この時の育英の選手も皆必死だった。格上の桐蔭相手に点差はわずか1点、この時選手は先頭打者として何が何でも塁に出たかったはずだ。横綱相手に、普通に野球をやっていてもなかなか勝てないのだから。
試合終了後の桐蔭の監督・選手の対応は、立派の一語に尽きる。桐蔭は確かに優勝こそできなかったが、強者が負ける時はかくあるべきという模範を示した。来年また甲子園に戻ってきて、優勝争いを繰り広げることだろう。