西洋では、ギリシャで紀元前４世紀頃から民間療法として広まり始め、16世紀にフランスの医師、アムグロアスバレーが医療術としてその効能を訴えるようになりました。そして、１８１３年には、スウェーデンのバー・ヘンリック・リングが治療体操を用いたマッサージを確立しています。スウェーデン式と呼ばれるこのマッサージは、血管循環を促す目的で、末梢から心臓に向かって行われるマッサージでした。オランダのメルツェルと彼の門下生ベルグマンは、このスウェーデン式マッサージを医療技術として紹介していきました。
この頃からマッサージは、オランダ、ドイツ、フランス、ポルトガルなどヨーロッパ全体に広まっていきました。
ドイツのモーゼンガイルは、マッサージの循環器に及ぼす影響の実験的証明を１８７５年に外科学会で発表しました。フランスの医師Ｊ・ルーカスは物理療法の分野をマッサージに応用しました。
１８９０年後半にはイギリス人サー・ウイリアム・ベネットがロンドンジョージア病院で、医療改革に乗り出し、その際マッサージを提唱しました。
日本において西洋式マッサージがもたらされたのは、明治20年軍医橋本乗晃によって、フランス式マッサージとして軍医長瀬時衝は、病院内で外科療法の補助として導入を試み、軍陣医学研究のため渡欧し、帰国した際に、いち早くマッサージを臨床の場に取り入れました。以後この西洋式マッサージは、ビタミンＢ１を含まない白米の普及により国民病と化した脚気（ビタミンＢ１欠乏症）の治療を巡って、東洋の療法と競い合うことになりました。脚気は、心不全によって下肢のむくみを、末梢神経障害によって下肢のしびれを起こす疾患で、当時明治天皇も脚気に罹ったことから、緊急対策が求められていました。結果、西洋式マッサージは慢性疾患に対し本来の力を発揮した東洋療法に敗退を帰しています。しかし、このことことをきっかけに、西洋医学が導入され、以降、富国強兵の政策の下に、ドイツ医学が軍医医療の根幹の据えられることとなりました。同時に江戸時代までの伝統療法であった按摩あんまは、鳴りを潜めることになりました。