今週末から、再び、約一か月間の旅生活が始まる。

胸の高鳴りを抑えられない。

旅の中で、僕がもっとも心待ちにしていることは出会いだ。

だから、コミュニケーションを取るチャンスのある全ての人に対して、「この先、一生の付き合いになる人」と思って、会話をするようにしている。

あなたも考えてみて欲しい。

今、あなたが大切だと思って付き合っている人達と初めて会った時、今のような親密な付き合いになると想像していただろうか？

その人の最もチャーミングな部分に、初対面の時にすでに気づいていただろうか？

人に惚れるのもそんな感じで、予期せぬ内心がふいに浮揚して始まることが多いと思う。

ただ、僕の場合、思考が現実を作るって信じているんで、常にポジティブな展開を期待してしまう。

だから、旅先で出会うほとんど全ての女性に対して、秒速で恋してしまっているんじゃないかって思うくらい。

常に胸にほのかなときめきを抱きながら旅している。

だからこそ、これまで「この人と仲良くなれるかもしれないな」と思った人とは幸運にも高確率で実際に親しくなってしまうので、女性に対しては、思考に気を付けるようにしている。独身じゃない今は特に。

思考を作用させる引き寄せ力が半端なく強いみたいだから。

とはいえ、今までの人生の中で、何度か、自分の理性をコントロール不能にした、強烈な印象を発する女性と出会うことがあった。

彼女達といると、可愛いとか、美しいとか、セクシーであるというような、誉め言葉が全く空々しくなってしまうような、怖いくらいの魅惑に射抜かれ、思考が無力化されてしまう。

男が時間を止めて旅を中断するのは、この女性のためなら死んでもいいと思えるほどの、魂を愛撫するエロスを秘めた恋愛に支配された時だけだろう。

社会的な身の破滅と引き換えにしてでもその陶酔の中に身を投じていたいと渇望してやまない、見悶えるほどのエロティシズム。

そんな恋は一生の間に何度もするべきものではない。

だけど、よろめくほどの危険で魅惑的な香りに魅せられるチャンスを求めなくなる人生って、いったい、どれほどの価値があるものなのだろう？

時に劣情を抑えきれないほどのくるおしい衝動の波打ち際に立ち尽くすあの無力感には、実は、漲る生命力が隠れている。

不快で退屈な、低エネルギーの日常の正反対なものだ。

50歳を超え、退屈な社会生活に飼い慣らされ、エネルギーに翳りを感じていくと、自分の周囲に魅惑の天国の扉があることを、多くの諸兄は気づかなくなっていく。

でも、かつてメラメラと燃え盛っていたあのエロスの炎にまだ少しでも種火が残っているのなら、その灯りで照らしてみれば、それらの扉が半開きになっていることに気づくだろう。

貴方は、その扉を大きく開けて、再度、あの、めくるめく、魅惑の失楽園に身を置きたいと思うだろうか？

その問いを心に抱え、僕はまた今週末から、旅に出ることにしよう。

天国の扉の隙間に覗く失楽園の魅惑