この作品はフィナーレを飾る乱舞する螢の光景を描いた文章が夢のように幻想的に美しく、忘れられない。
『何万何十万もの螢火が、川のふちで静かにうねっていた。・・・螢の大群は、滝壺の底に寂寞と舞う微生物の屍のように、はかりしれない沈黙と死臭を孕んで光の澱と化し、天空へ天空へと光彩をぼかしながら冷たい火の粉状になって舞い上がっていた。四人はただ立ちつくしていた。長い間そうしていた。・・・木の枝につかまり、身を乗り出して川べりを覗き込んだ千代の
喉元からかすかな悲鳴がこぼれ出た。風がやみ、再び静寂の戻った窪地の底に、螢の綾なす妖光が人間の形で立っていた。』
宮本さんの作品に接するといつも日本語の美しさに心を打たれる。この作品の登場人物が
話す「富山弁」も温かく、臨場感を盛り立ててくれた。