硝子の少女
[19歳の男性 5歳の少女を殺_害]今日の新聞の一部分だ。私は今、その男を事情聴取しようとしている。目の前の彼は目を机に落とし、その目には生気はなく、目の奥にはただ静かな暗闇がひそんでいた。私は彼に尋ねた。「この犯行について、教えてくれますね?」彼は瞬きもせず、こちらに目を向けた。そしてゆっくりと口を開いた。「僕は、1年前に彼女と出会いました。彼女はとても純粋で、無垢で、彼女の笑みには愛されているという幸せが溢れていました。僕はこの子が愛されていることを知り、心が温まりました。しかし、それと同時に哀れに、惨めに思えました。この子がこうして幸せそうに笑みを零せるのは、この世界をまだ知らない無垢な存在であるから。この世界は、思いやりの欠片のない人達で溢れかえっています。純粋というのは、美しくもあり、恐ろしいものでもあります。簡単に何色にも染まってしまうから。そんな子がこの世界で生きていったらどうなりますか。いつまでも幸せそうに笑っていられますか?あの子の心が暗闇に染まりませんか?僕は彼女にこの世界を知って欲しくなかった。僕は彼女に幸せでいて欲しかったんです。」この男は、少女の幸せを願い、少女を殺_したと言うのか。私はふと気がつくと、涙が出ていたことに気がついた。だが、この涙は決してこの男に対する同情ではなかった。「なら、あなたがあの少女の心が荒まないように、そばにいて助けてあげれば良かったのではないですか?」彼は少し俯いて、少し間を開けてから口を開いた。「僕は。。僕も、もうこの世界の住民と同じなんです。思いやりのない。黒く汚れきった。そんな怪物なんです。彼女には僕みたいにはなって欲しくなかったのです。あの幸せそうな少女がこの黒くよどんだ世界で、どれほど輝いていたか。僕は、願ってしまったのです。彼女の幸せを。こんなのはただのエゴにすぎません。でも、僕にはどうしても、彼女が黒く染まっていくのが耐えられなかった。あの笑顔が壊れてしまうのは見たくなかった。」私は彼が少女を心から思っていたことを悟った。少女の幸せを願った結末が、幸せを感じることのない死を与える結果になってしまったのだ。少女も彼も哀れに思えた。「今日はここまでです。明日また話を聞かせてもらいます。」私は席を立った。すると、彼は言った。「あの。。聞いてもいいですか。どうしたら、彼女を生きたまま幸せにすることができましたか。僕にはどうしてもわからないんです。」少し考えてから、口を開いた。「あなたがこれから生きて、幸せになればその方法が分かるのではないですか?」彼は私の言葉を聞き、少し驚いた顔をし、そして、悲しそうに笑って言った。「そうですね。」次の日、彼は死を迎えていた。死因は自然死だった。