悲しみの海へたどり着くまで「無花果とムーン」を読んで | 風信子 

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 本が読める時間が減って、ストレスです(笑)


 そんな中でも時間を積み上げて読んだ一冊。


 桜庭一樹著「無花果とムーン」です。


 主人公のあたしこと「月夜」は家族の中の異端者。もらわれっこで、瞳が紫。血のつながらない兄貴とお兄ちゃん、お父さんの四人暮らし。お母さんは月夜が来てしばらくして家から出て行ってしまった。


 でも、四人家族はそれぞれを大事にしあって、特に月夜はお兄ちゃんに「ぼくのパープル・アイ」と呼ばれていつくしまれる日々を送っていたのに……。


 そのお兄ちゃんがアーモンド・アレルギーで、月夜が十八歳の夏、十九歳で死んでしまったところから物語は始まります。


 これは死者になってしまったお兄ちゃんと生者であるあたしの交流の物語。


 あとがきで著者の桜庭さんがこの作品では能の手法を使って表現をしたと記していますが、確かに能は死者と生者の交流の物語が多い。


 死者が生者に何かを訴えて、そうして死の世界へと帰ってゆく。


 物語の中で、月夜が語る「悲しみの海」というのはおそらく死者も生者もともに持っているものなのだろうと私は思いました。


 能面は死者の顔なのだそうです。(これは高校の時の古文の先生に教えてもらったことですね)確かに能の舞台には多くの死者が己の訴えを無念を聞いてくれと現れます。


 己の物語を語り、そうしてまた死者の世界へ帰ってゆく。


 死者は生者を己の悲しみの海へ導こうとしているのかもしれないし、生者の悲しみを死者が悲しみの海へ流していくのかもしれません。


 なんだか久しぶりに桜庭さんらしい物語を読んだような気がしましたね。原点回帰というか。


酒井駒子さんの表紙も素敵な一冊です。


無花果とムーン (角川文庫)/KADOKAWA/角川書店
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