私がサイボーグ009が大好きなのは、こちらへ遊びに来てくださっている方はご存知かと……。
白黒時代の009のテーマはまさに反戦でした。(原作も反戦が大きなテーマの一つですね)
特にミステリー界の大御所でもあり、現在もアニメ脚本家の大家である辻真先氏が脚本、そして鬼籍に入られてしまいましたが芹川勇吾氏演出をされた『太平洋の亡霊』はいまだに涙なしでは見ることはできません。
この『太平洋の亡霊』の物語は009たちがハワイの真珠湾を訪れた時から始まります。
そこで優雅に休日を楽しんでいた009たちと一人の老人が、自分がかつて真珠湾攻撃で潜水艦に気が付いたことを語り始めます。そうして、そこへ当時の日本軍の飛行隊や潜水艦が復活。攻撃を始めます。その指揮を執っていたのは骸骨。そんなショッキングなシーンから物語は始まります。
そこから始まる、かつてのゼロ戦や連合艦隊の復活。そして、復活した旧日本軍に攻撃される自衛隊機やアメリカ軍。
不審に思った009たちは調査を始めます。そこで今回の事件の被害者である自衛隊員から一人から平という人物の名前が浮かび上がります。その人物は特攻隊員として、すでに亡くなっていて、一人年老いた父親だけが生き残っていること。そして彼は科学者であり、その専門が超心理学であることを001が調べ上げます。
そして彼の研究所が九州の与那島にあること。
一方、よみがえった旧日本軍の戦闘機は攻撃を続けながらアメリカへ向かい、その中でビキニの原爆実験で沈んだ長門がよみがえりるのです。向かう先はサンフランシスコのゴールデンゲイトブリッジ。愚かにもそれを止めるためにアメリカ軍は再度長門に原爆を落としたのですが、長門は被ばく量を増やしただけ。
このすべての事件は平博士が引き起こしたものだった。あの愚かな戦争で息子を奪い取られた彼は、人間の脳のすべての力を引き出す装置を作り上げてかつての連合艦隊を復活させていたのだ。
彼の暴走を止めるべく、009たちは彼のもとへ行きますが、そこで平博士は、「あなたはくるっている」という009へこういいます。
「狂っているのは私ではない、人間だ! お前たちだ!
かつて日本は誤れる戦いをし、多くの若い命を犠牲にしてしまった。その時、我々は彼等の魂に何と誓った?
そして、我々は戦争放棄を憲法によって定め、二度と軍隊を持たぬと宣言した。
そしてさらに平博士はこう続けます。
「だが、いまやその誓いは虚しかった。世界の各国は軍備の拡張に、兵器の力を広げることにしのぎを削っている。
私の一人息子は戦争で死んだ。
死者が帰らぬ以上、生きているわしがなすべきことは何か!
これがわしの回答だ!」
喜々として、アメリカ軍が自らよみがえらせた旧日本軍に攻撃される様を語る平博士に009がこう叫びます。
「やめろ!」と……。
そして、009はこう続けます。
「あなたは神になったつもりだろうが、それは違う!
戦いを憎むといいながら、次から次へと戦いを生み、争いをまき散らしているじゃないか!」
そして、超能力でサンフランシスコの町が見えるなら、見ればいいと。そこには罪もない人々が逃げ惑う姿が……。
その町の様子に迷いを見せる平博士に009はさらに言葉を続けます。
「一人の息子を失ったあなたは、その千倍の悲劇を作ろうとしている!」
そのとき、平博士の前に死んだはずの息子の幻が表れて、こう諭します。
「パパ、僕たちの魂をこれ以上いじらないでくれないか。
お願いだ、昔の優しいパパに戻っておくれ。
僕と一緒にトンボとりをしてくれた、パパみたいに……。」
そして、もう一度お前を抱きしめてやることができるだろうかと言いながら、息子を抱きしめて平博士は息絶えます。同時によみがえった旧日本軍も元のがれきに戻るのです。
009の報告にギルモア博士がこう答えてこの物語は終わりを告げます。
「狂った悪魔は平博士だったのか、それとも平和の名を借りて戦争の準備を怠らない人間どもの方なのか……。」
国を守る、それは当然のことでしょう。でも、自ら戦争を仕掛けることは違う。それはこの物語のような悲劇をまた起こすかもしれない。私は日本が自ら拳を振り上げてはならないと思うのです。
ですが、日本は拳を振り上げる国になってしまった。近い未来に、自分が平博士のような思いや憎しみを持つ親にならない、人間にならないという言える人がどれだけいるのだろう。そして国民一人一人に感情があり、その人の感情こそが国を動かしているのだという考えを持つ人間が与党にはいないのでしょうか? 今回の強行採決にそんなことを考えていました。
そんなことを考えて、この作品を見る時が来るなんて思わなかった。これは有名すぎるほどの反戦作品で、憲法9条やBGMに使われた『はげ山の一夜』が素晴らしい演出で、脚本も歴史に残るものです。こんな気持ちで見たくなかったな。
ご覧いただける機会があるのなら、この時期だからこそ見てもらいたい一作です。(『平和の戦士は死なず』もですね。これも辻、芹川コンビの反戦もので、まさに最終回にふさわしい話です)
今は無理だけど、落ち着いたら石ノ森先生のお墓詣りにいこう。
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