あなたがこの世に生まれてきてから、
私の生活はあなた中心になった。
母乳が出ないなんて
想像もしていなかったわたしは
入院中
毎日授乳後に測る体重測定が
本当に苦痛で仕方なかった。
でも、
それよりも
母乳で育てることが出来ない申し訳なさと
母としての役割が何も果たせない
と
自分を責めることが大きかった。
それでも
夜中
パパが抱っこしても泣き止むことのないあなたを
だまって
私の腕の中に抱き上げた途端
あなたは
ピタリと泣きやんでいた。
わたしは
そんな瞬間に
どんなにか救われてきただろう。
私という人間が唯一無二の母だということを
まだ話もできない
歩くことも出来ない
何も出来ないあなたは
ちゃんと
肌で
心で私という存在を分かってくれているのかと思うたび
どんなに睡眠を遮られても
思うように家事がすすまなくても
お風呂にもゆっくりはいれなくても
やりたいことが思う通りにすすまなくても
あなたの全てを私に委ねていることが
分かっているから
どんなにことを遮られても
毎日を頑張ることができた。
そして今あなたは
高校二年生になった。
買い物ひとつにしても
あなたをベビーカーに乗せて
たくさんの荷物を自分で抱え、
チャイルドシートに座らせて
どれだけでも時間がかかっていたあの頃。
いつの間にか私よりもうんと高くなったあなたは
私よりも力持ちになって
どんなに重い荷物でも
ひょい
と
車まで運んでくれるようになった。
よだれかけをして
スプーンで口までもっていかないと
食事ができなかったあなたは
今、
私の知らないところで
仲間と一緒にご飯を食べて帰るようにもなった。
あなたがひとりでできることが
多くなった分、
わたしは自分の時間が増え、
やりたいようにできるようになっているのに、
わたしのすることを遮るものは
何もないはずなのに
何も出来なかったあなたと一緒にいた頃が
いろんなことを
遮られて来たあの頃が
どんなに幸せだったのかと
あらためて思う日々。
ママ
ママ
ママ、ママ、ママ!
1日何回も呼んでくれ、
小さくてぷよぷよした両腕を上げながら
よそ見することなく
まっすぐに私を見ながら
駆け寄って来てくれていたあの頃をよく思い出す。
わたしが涙したとき
そっとそばに来て
ふわふわとした小さなもみじのような手で
そっと私の手を握り
一緒に外を歩いたくれたあなたは
今や
私を諭すように
促すように
話してくれる存在となった。
遮るものは何もないのに
自由が増えたはずなのに
あの時の
一瞬
一瞬が
二度と味わえない幸せな時間だったのかと
今更ながら思う。
わたしは子育てではなく
子供たちから
親にしてもらえたし
信じて待つという
尊いことを
日常生活の中で培わせてもらった。
母であることは
永遠だけど
ママの期間は本当に短くて
儚い。
遮られてきたあの頃が
どれだけでも幸せな時間だったのかと
過ぎ去ったいま
あらためて思う。
パパへ。
だからお願い。
甘やかし過ぎだ
と言われても
そうかもしれないと思うことはあるけれど
一緒に過ごせる今は
今だけは
私の好きなようにさせてね。
お願いします。
千恵子