第74話 鎌倉の御大【後編】
事ここに至っては有効な対抗策も見いだせず、新幹線が到着するなり目を皿の様にしてそれと思しき人物を探す3回生。見逃したのではないか、、という不安を抱えながらホームを文字通り右往左往しております。
そこへ11時ちょうど位に到着した次の新幹線。降りた乗客は目的を持ってさっさと歩いて行くのでありますが、待ち人を探す風の人はおりませんが、1名、赤ん坊を抱えた様なホームレス風の男性がおります。新幹線のホームにホームレスとは極めて面妖な話ではありますが、朝のラジオ体操から帰ったばかりかと見紛う様な生活感溢れるジャージにジャンパー、スリッパ、寝癖隠しのキャップ、という風体。明らかな不審者であります。お互いにチラ、チラと視線が交錯し、その頻度が甚だしくなったところで
「押忍、失礼ながら、もしかして、、」
と恐る恐る声をかけたところ、鎌倉の御大その人でありまして。まさかそんな恰好で、とは言えないものですから、何となく話をごまかしながら、タクシー乗り場に向かうのでありました。
そこへ11時ちょうど位に到着した次の新幹線。降りた乗客は目的を持ってさっさと歩いて行くのでありますが、待ち人を探す風の人はおりませんが、1名、赤ん坊を抱えた様なホームレス風の男性がおります。新幹線のホームにホームレスとは極めて面妖な話ではありますが、朝のラジオ体操から帰ったばかりかと見紛う様な生活感溢れるジャージにジャンパー、スリッパ、寝癖隠しのキャップ、という風体。明らかな不審者であります。お互いにチラ、チラと視線が交錯し、その頻度が甚だしくなったところで
「押忍、失礼ながら、もしかして、、」
と恐る恐る声をかけたところ、鎌倉の御大その人でありまして。まさかそんな恰好で、とは言えないものですから、何となく話をごまかしながら、タクシー乗り場に向かうのでありました。
お会いして分かったのでありますが、服装には無頓着な方でありまして、会社では奥方や側近が社の代表に相応しいスーツを見繕っていたそうであります。この日も出発がギリギリになり、慌てて家でリラックスしている出で立ちのまま飛び出して来た訳であります。
タクシーの中では「お前は何回生か?」「ワシが3回生の時は貪欲に色々と動いておったぞ」とか仰る訳ですが、ヨレヨレのジャージのポケットから札束を覗かせながら「ハングリーやないとあかん」と仰られても説得力がないのであります。
とは申せ男一代、実業界で名を上げた方でありますので、他に奇行もなくお話も極めて常識的なものであり、團員一同、安堵致したのであります。この日の夜は御大は神戸で宿泊され、三宮で食事を共にさせて頂いたのですが、待ち合わせ場所のお店に現れた御大は見違える様なスーツ姿に変身しておられました。何でも鎌倉を出立後、奥方の密命を受けた会社の方が着替え一式を用意してホテルに届けに来られたとの事でありました。
「この先輩と現役時代が重なってなくてよかった」
と思う團員一同でありました。
甲南大學應援團OB会
八代目甲雄会広報委員会