第63話 裏地(後編)
ある時、諸事せっかちな團員が、この店で極めて短時間で裏地の買い物を済ませ、その足で学ランを誂えに行きまして、後日、出来上がった学ランを見せてもらうと、何と一富士二鷹三茄子の年賀状に使用したくなる様なおめでたい裏地でありました。何でも彼は折りたたんである裏地の一番上に見えていた鷹の絵を見て雄々しい図柄を勝手にイメージして、全体像を見る事なく買ったが為に斯様な仕儀に相成ったのでありました。
「めでたいお前にピッタリやないか」
と先輩に散々、笑いのネタにされておりました。
と先輩に散々、笑いのネタにされておりました。
また別のおめでたい團員の話であります。彼は前述の團員とは異なり、じっくり選んだ結果、和尚様の図柄を選択致しておりました。月並みな雄々しい龍虎風のものや、他に誰かが使っている様なものは避けて、自分のオリジナルになり得るという観点で選んだ結果、きっと我が團はおろか他校の者でも手をつけないであろう、不気味なお坊さんの図柄に辿り着いた訳であります。
さて、後日、出来上がった学ランを團室でお披露目する事になったのですが、裏地が気持ち悪いだの邪気が寄って来るだのと酷評される事になった訳ですが、そこは想定通りの反応でありまして、逆に彼は一人ほくそ笑んでおりました。
すると一人、上級生が首を傾げながら裏地をしげしげと眺めていると思いきや、突如、凄まじい勢いで笑い転げだしたのであります。何事ならん、とその上級生の同期達が何が可笑しいのか尋ねると、何とその絵は隠し絵になっておりまして、見方を変えて見ると何とさっきまで和尚様に見えていた絵が男性のシンボルにしか見えないのであります。
「お前、立派でええやないか。めでたい、めでたい」
とお褒めの言葉を頂戴しておりました。
「お前、立派でええやないか。めでたい、めでたい」
とお褒めの言葉を頂戴しておりました。
しかしそこは我が團の團員、懲りる事なく、その猥褻、もとい不気味な裏地を学ランの裏に忍ばせて團生活を営んでおりました。そして夜、飲みに行くと上着のボタンを全て外したラフな格好になるのが常でありまして、ハラリと見える学ランの裏地を目にした店の女の子に「気持ち悪~」としかめっ面をされるのを日常としておりました。
この和尚様の図柄、良く出来ておりまして一見して隠し絵のトリックを見破れるのは10人いれば1人いるかどうかという感じでした。ところが稀にこの絵に隠されているモノの存在に気付く女性がいますと「いや~ん♡」と雄叫びならぬ雌叫びを上げるのでありました。
「心理学的に言っても、一見してこの絵のトリックを見破るとは欲求不満に違いない」
「心理学的に言っても、一見してこの絵のトリックを見破るとは欲求不満に違いない」
という謎且つ不動の哲学を持つ彼は、一生懸命、目のつけどころの違う女性を口説いておりました。ただその勝率は、隠し絵を見破る確率より低かった事は言うまでもありません。
甲南大學應援團OB会
八代目甲雄会広報委員会