第20話「交渉」
本山村怪々奇團(第19話 白紙)の続編であります。
大事な学園祭での出店を賭けたくじ引きではずれくじを引いた2回生諸氏、團室の前で先輩方にどう報告するか議論を重ねたものの良い知恵が出る訳もなく、正直に申告する事に相成りました。
どんな怒号が飛ぶか、ビクビクしておりますと意外な事に静かに話を聞いて下さいます。これは奇跡的な物分かりの良さを示して下さったのか、と思うのは早計でありまして、ただ一言「うむ、それで?」であります。
「模擬店に関しては1、2回生に任せてるんやから、先方とどんな交渉をしようともお前らの勝手や。大事になるかもしれんから、という事前の報告なんやろ?」と恐ろしい事を仰いますが、正論でありますので「押忍、まさにその通りであります」と答えるしかありません。「ほな事前報告は承知したから、さっさと話をまとめてこんかい」と團室を追い出される始末であります。
こうなると後には退けない2回生諸氏、玉砕覚悟で学園祭実行委員会が設置されております一室に向かいます。しかし至極当然の事ながら「應援團さん、無茶を言うたらあきまへんわ」とのつれない回答しか出て参りません。全団体が公平にくじを引いて決めた事に意義を唱えている訳ですから、横車を押すにも程があるというものであります。
しかし理屈は分かってもここで退く事が何を意味するか嫌という位、分かっておりますので、2回生氏も「何とかせんかい」としか言えません。そんな押し問答が1時間近く続いた頃、突如、部屋のドアが乱暴に開けられ、実行委員会メンバー諸氏の顔色が変わります。「キミタチ、話はうまくまとまったかしら?」と我が團3回生氏の中でもとりわけ危険人物とされる2名が立っているではありませんか。
1名はいつもこめかみに青筋をピクピクとさせている「瞬間湯沸かし器」との異名を持つ人物。性格は凶暴の一言に尽きまして、團内外、学内外問わず数多くのノックアウト記録を持つハードパンチャー。もう1名は180㎝を越す上背と100kgを越える目方を誇る巨漢とサングラスと髭がトレードマークの親衛隊の顔とも言える人物。
「押忍、ようやく我々の主張を理解頂いたところであります」と大法螺を吹く某2回生氏に「そんな事は言うとらん!」と反論する委員会メンバー氏。すると予想通り「ほほぉ、キミはワシらの懇切丁寧なる依頼に耳を貸さんという訳ね?」と青筋氏の青筋が激しくピクピク致します。「じゃあ、キミタチは部屋の前で誰も入って来ない様にしっかり見張っててくれるかしら」と2回生諸氏に指示が飛びます。
その後の密室でどの様な交渉が行われたのかは、謎のままでありますが、その年の学園祭では我が應援團は無事、全日、模擬店を出店する事が出来ました。恐るべき交渉力と言えましょう。
八代目甲南大學應援團OB会広報委員会