家族っていいなぁと、
ようやく今になって思うようになってきたから、
きっと、少しだけ、
私はまた大人に近づいたのかもしれない。
いつも心の中にあった「しこり」。
それは、
仲の良い家族への憧れだった。
私が思春期の頃の我が家は、
いつも険悪な空気が漂い、
夕食はお葬式のように静まり、
王様のような父の前では、
みんな押し黙って生活していた。
時々、
天真爛漫に笑いながら、
「うちのお父さん、ほんと馬鹿なんだよー。」と
お父さんの話をする友達を見て、
うらやましかった。
あぁだからこの子はこんなに笑顔が素敵なんだなー、
と思ったりもした。
なんというか、
うちでは、
隙を見せてはいけなかった。
隙を見せたくなかった。
記憶の中の家族像といえば、
そんな感じで、
温かな家族というものに関しては、
ずっと期待しないできたわけだけど、
今になって、
その気持ちが少し変わりつつある。
母と父は五十を過ぎて、
子供たちの巣立った二人だけの生活を、
今はなんとなく、
満喫している、ようにさえ見える。
私がたまに帰省して、
「ただいま」と玄関で小さく言うと、
おしゃべりしていた様子の父と母が、
「あぁ、おかえり」と笑顔で声を揃えて言ってくる。
こんなこと、十年前じゃ絶対にありえなかった。
なんだったんだ。
と私は拍子抜けする。
そして、
誰かと結婚して夫婦になることが、
今までよりちょっとだけ、
ちょっとだけ、
素敵なことだな、
と思えてしまう。
昔お母さんが、
「夫婦には夫婦にしか分からない何かがあるの。
それはいくら子供でも分からないものだから。」
と言っていた気がする。
これまで、
消し去りたかった母の泣き顔が、
今は、
そんなことあったっけ、と思えて、
それが悔しい。
でも、
これからもお幸せに、って両親に対して思えるようになって
正直嬉しい。