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黙ってユリウスの言うことを聞いている

ユスーポフ侯。

 

その表情は、

責められること、非難されることを

覚悟しているかのよう。

 

ところがユリウスは斜め上の責め方をする。

 

 

ユリウスは

黙っていたことではなく、

自分を利用するためだけにそばに置いていた

ということを責めた。

 

最初はともかく、

とっくの昔にそんなつもりは無くなっていた

ユスーポフ侯にとって、

これはある意味濡れ衣である。

 

これを聞いた彼の表情が変わる。

 

 

思わぬところで

濡れ衣を着せられたユスーポフ侯。

傷ついて泣いているユリウスの顔を見て

動揺が走る。

 

色々と準備を整えてもらったお礼を言って、

出ていくことを伝えるユリウス。

 

濡れ衣を着せられたからか、

内心の動揺が手のプルプルに出ている

ユスーポフ侯。

 

 

 

覚悟を決めたユリウスは、

今までのお礼とさよならの挨拶として

手を差し出す。

 

この状況下でのお別れは

永遠のさよならを表す「アデュー」

と解釈するのが適当かと。

 

決して「オ ルヴォワール」

のような、

軽いさよならではない。

 

手を差し出されたユスーポフ侯は

なぜか衝撃を受けている。

 

自分で手筈を整えたはずなのだが・・・

 

しかも握手を拒否したうえに

体の向きまで変えてしまう。

 

最初の頃はこの場面を見て、

「失礼なやつ( ̄∩ ̄# 」

と思ったけれど、

 

今は別の思いがある。

 

ユスーポフ侯は物事を理詰めで考える。

その中に感情が入る隙はない。

 

今回のことも、

諸事情から今のうちに手放した方が良い

と結論づけて、他人事のように

淡々と処理したのではないだろうか。

 

それが現実になって

手を差し出された時、

これが「永遠のさよなら」であることに

気がついた。

 

その途端、反射的に拒否したのではないか。

 

 

もう一つの考察。

 

最初に「違うと」言いかけてから

「違うのだ」と言うまでに

11コマかかっている。

 

今まで自分が好意でユリウスにしてきたことを

誤解されたことで、

ユスーポフ侯はショックを受けた。

 

追い討ちとして

(永遠の)さよならの手を差し出され、

 

さらなるショックを受けて

思わず向きを変えた、

のか。

 

 

握手を返してくれなかったばかりか

背を向けられてしまい、

諦めというか悲しげな表情で

立ち去ろうとするユリウス。

 

 

ここはユスーポフ侯が初めて

自分の本音、気持ちを

ユリウスに曝け出した貴重な場面。

 

この人は誰に対しても、決して

自分の感情や本音を

言葉にはしなかった。

 

お別れ場面でも、

こんな言動をする予定は

なかったはず。

 

最後の最後にこうなったのは、

ユリウスに誤解されたまま

今生の別れになるのが

耐えられなかったからであろう。

 

 

この場面は最初に読んだ頃から

なぜか印象に残った。

 

このコマだけ見れば、

相思相愛の恋人同士の抱擁に

見える。

 

二人とも、

とても平穏で幸せそうな表情を

しているから。

 

決して「また会おう」のハグには見えない。

 

周りの木々。

 

ユリウスの記憶が

一瞬だけ蘇ってきたのか、とも思える。

 

多分、ミュンヘンに行く途中、

汽車から飛び降りてずぶ濡れになった

クラウス(アレクセイ)と会った時の。

 

けれど見方によっては

風が吹き雪が降っているようにも

見える。

 

このシーンの枯れ木、

本当は何を意味しているのだろうか。

 

 

ここでまた不測の事態が起こる。

 

 

ユリウス本人に自覚はないのだろうが、

側から見るとこれは

逆プロポーズ

に聞こえないだろうか。

 

ユスーポフ侯もびっくりである。

 

一瞬驚いた表情をするが、

気になるのは

一番下の彼の表情。

 

嬉しそうには見えない。

何か考え中?

 

次の窓の外の暗い風景は

時間の経過か、

これから起こる暗雲の運命を

暗示しているのだろうか?

 

ユリウスをまた抱きしめるユスーポフ侯。

 

次の彼の独白が、賛否両論あるようで。

 

 

如何様にも解釈できる余地があるが、

これは逆プロポーズ?に対する

返事とも取れる。

 

ここで考えられること

  • ユスーポフ侯はユリウスの真意を測りかねている
  • 自分はユリウスを愛している
  • 彼女が自分を愛してはいないことを理解している

そう思う理由 

記憶がある時は思いっきり反抗していたが、

記憶を失くしたと同時に

擦り寄ってくるようになった。

 

自分が誰なのかを

教えてもらっていなかったこともあって、

精神的に不安定だったから。

 

頼りにして縋り付ける相手は、

ユスーポフ侯のみ。

 

吹雪に怯えて縋りついた時も、

愛情からではないことが

読者でもわかる。

 

ユスーポフ侯は、

ユリウスの側にいて守ってくれる男性ならば、

自分でなくてもいい、ということは

理解していたのではないか。

 

前から思っていたことだが、

ユリウスは基本的に

男性に依存するタイプかと。

 

第一部で、アレクセイ(クラウス)が

休暇明けになっても学校に来なかった時の

ユリウスの反応は

狂気じみていた。

 

あまりにもひどかったから、

何もかも知っていた上級生のダヴィットが

嗜めたくらい。

 

あの辺りの話は、あまり好きではない。

常軌を逸していて、

読んでいると怖くなってくるから。

 

ここ第3部では

記憶がなくて不安で仕方がないとはいえ、

今度は側にいるユスーポフ侯に

依存するのか(ー`´ー)?

 

と思ったことが何度も。

 

それが結局のところ、

ユリウスに手を出さなかった本当の理由

ではないかと。

 

関係ができた後に

記憶が戻ってアレクセイのことを

思い出されたら、

 

一波乱ありそうなことは

簡単に予測できる。

 

 

ユリウスとユスーポフ侯は

邸内で毎日顔を合わせるわけでは

ないだろう。

 

でも7年も一緒に生活してきた事を考慮すると

どこか不自然さは感じる。

 

ユスーポフ侯の我慢強さというか

意志の強さには

驚く限りだ( ̄_ ̄)

 

 

そして下半分は、

これから自分がやっていくだろうことを

抽象的に語っている。

 

父親の暗殺からこの時期にかけて

自分に降りかかった事象を考えれば、

 

いつ自分の身に何が起こるかわからない

 

と考えているはず。

 

特にアデール夫人との離婚で

その危険性は高まった。

 

皇帝の姪の夫ではなかなか手は出せないが、

離婚してしまえば

いくらでも暗殺の機会は

出てくるであろう。

 

自分の身に何かあったら、

ユリウスを守ることが

できなくなってしまう。

 

 

ドイツとの関係も悪化している現状では、

いつ戦争になるかわからない。

そうなってからでは

無事に帰すことができなくなる。

 

ユスーポフ侯はそう語っている。

 

理由はこれ一つだけではなく、

上記のような諸事情を考慮すると

この時期に手放すしかない、

 

との判断を下したのだろう。

 

もしユリウスがユスーポフ侯を

本当に愛していたら、

この状況は変わったのだろうか。

 

自分の身に何かあった時の事を考えると、

やはりドイツに帰したかも。

 

実際にロシアとドイツが戦争になるのは

第一次世界大戦の1914年。

この時がまだ1912年であるとすれば、

まだまだ先の話である

 

ユリウスがあっさりと引き下がった理由。

 

 

ユリウスが

ユスーポフ侯の部屋から出て行った時、

その後邸を出て行った時、

どちらもユスーポフ侯は見送らなかった。

 

部屋を出る時は窓の外を凝視していた。

邸を出る時は、

窓から離れた壁に向かって立っていた。

 

代わりに見送ったのは妹のヴェーラ。

 

ユスーポフ侯の心情を思うと物悲しい・・・

 

断腸の思いとは、

こういうことを言うのかもしれない。

 

手放したくはないのに、

諸事情がそれを許さない。

 

自分の想いを断ち切る手段として

見送らなかったのか。

 

はたまた

 

強い気持ちがある故に、

意志の強いユスーポフ侯でさえ、

ユリウスを見送ることは

できなかったのか。

 

いなくなるという現実から

目を逸らしたい、

という気持ちもあったかもしれない。

 

ユリウスへの思慕を断ち切ると決めたから、

逆プロボーズをされても

表情に変化が現れなかった。

 

別れる

 

この一択しか、彼の心にはなかったのだろう。

 

とはいえ、

あっさり捨て去れるものではないから、

また抱きしめてしまったのだろう。

 

ユスーポフ侯がユリウスに関して

話していたことは

 

過去にこうしていたかもしれない、

 

ということだけ。

 

未来のことは、

あの抽象的な独白の中にしか出てこない。

 

ユスーポフ侯の中では

ユリウスへの気持ちは未来には無い

ことを前提にしていると

言えないだろうか。

 

ユリウスはアレクセイにもユスーポフ侯にも

愛されながら捨てられる

(というと語弊があるが)

薄幸の美女のようだ。

 

それはともかく、

ユスーポフ侯の切ない気持ちに、

久々に

 

号泣(──┬──__──┬──)