「りゅー…」
「いや、うん。だからね、…あぁ、大失敗。格好つけたかったのになぁ」
恥ずかしい、恥ずかしいと言いながら、両手で顔を覆う。だけど、指の隙間からこちらを見ている。
王族だけが持つことを許されている、その装飾具は、異性には好意の証に、同性には信頼の証に渡すもの、とされている。
つまり、龍羽はラヴィルスに好意の証として、ブレスレットをくれる、と言っているのだ。
「……あたしが、」
龍羽の言って欲しい言葉は、ラヴィルスには、言っていいのかわからない言葉だ。
だけど、掌の輝くピンクシルバーが、ラヴィルスの背中を押してくれているようだ。
「あたし、が。……持ってていい、ってことなの?」
「持っててくれると、嬉しいんだけど。…うー。嫌なら、そこら辺に捨てておいて」
「……極端ね、どうしてそうなるのよ」
ラヴィルスの緊張なんて、もしかしたら龍羽には伝わってないのかもしれない。
ラヴィルスと同じくらい、いや、それ以上に龍羽のほうが緊張しているのかもしれない。それでも、伝えようとしてくれているなら、ほんの少しでも、応えたい。応えることが出来ない自分なんて、もう、捨ててしまいたい。
「だってさ、…あぁ、もう。俺もミューのこと言えないな」
どうして、そこでミューの名前が出てくるのか、ラヴィルスにはよくわからないが。
照れてしまっているのは、本当らしい。
たまに見せる、大人になりきる途中の表情が、ラヴィルスはとても好きだ。
ラヴィルスは、覚悟を決める。ピンクシルバーの龍羽の名前の刻まれたブレスレットを、そっと龍羽に差し出す。
「―――えっ?」
龍羽は、驚いた顔で、ラヴィルスを見る。
「あ、違うの。だから、……その、つけてくれる?」
「なんだ。吃驚した…。突き返されたのかと、思うじゃん」
ほっとした顔で、ブレスレットを受け取ると、躊躇いがちにラヴィルスの差し出した左手に触れる。それは、恭しく、神聖な儀式のようにも見える。
自分から、つけてくれと言っておいて、段々恥ずかしくなってきた。
「はい、ついた。これで、大丈夫?」
「…あり、がと。―――あたし…、っ!」
勢いをつけて、言おうとした言葉を飲み込んでしまった。
何故なら、龍羽がいきなり、ラヴィルスの肩に顔を埋めてしまったからだ。まるで、抱きしめるように、身体を寄せてくる。
いつものことのようだが、きっと、いつもとは違う。
思っている、気持ちが違う。
「りゅ、りゅー…」
抱きしめられているだけではいけない気がして、龍羽の背中に腕を回してしまった。どうしてそんなことをしたのか自分でもよくわからないけれど、そのまま服をきゅっと握りしめる。
なにか言いたいことが、言えなくても、いい話ではないのだろう。会話の節々に見せるふとした瞬間の顔が、切な過ぎる。
「…俺、ラヴィルスのことが好きだよ」
「…っ」
「大好きだけど、…もうちょっと、ここに居なきゃ」
「…?」
「寂しい思いをさせるかも、ごめんね?でも、ココ姉がいてくれるから、大丈夫だよね。…でも、俺が寂しくなっちゃいそうだなぁ」
「……っ」
呼んでくれたらいいのに。
そうすれば、いつでも飛んでいくのに。
そう、言いたいけれど、喉がつん、と痛くて声にならない。代わりに、力を入れて抱きしめ返す。
「もうちょっと、このまま、……」
哀しいわけじゃない。
嬉しいとも違う。
理由もわからないのに、涙が零れてしまう。
このまま離れたくない。温もりが、優しすぎて、信じられなくなる。今まで、なにを考えて、どうやって、自分を取り繕って生きてきたのか。
答えは見つからず、その温もりすら自分からは、手離せないのだ。