通勤途中にあった、マンションの敷地沿いの花壇。狭いスペースには、高低差をつけて帯のように植えられた色とりどりの花がありました。わたしはその路を「ミニ英国庭園の小路」と名付けてお花の鑑賞を楽しんでいたんです。その路を歩くと、花々から無邪気な楽しさが溢れだしているようで。毎朝元気をいただけるようで。
「きっと花が大好きな人が、心を込めて植えてくれた花壇なのだなぁ」そんな風に思っていました。ある日、花壇の脇にしゃがみ楽しそうに土をいじっている人に会いました。緑色に二本の白い線が入ったうどんジャージを履いた、80代くらいのおじいちゃん。「花壇を創ってくれている人だ!」嬉しくなって、その背中に話しかけてみました。
「おはようございます。あのう、私は近くに住んでいて、いつも通勤途中でここを通るんですけれど」
振り返るおじいちゃん。
「わたし、この色とりどりの花壇が大好きなんです。ここを通るといつも元気になります。花壇をつくってくださっている方にお礼をいいたくて」
「ぼくが一人でこの花壇つくってるんですよ」
「そうだったのですね!」
「マンションの人たちは誰も花壇づくりに参加してくれなくてね」
「お一人でつくっていらっしゃったのですね!ありがとうございます」
がばっと立ち上がって深々とおじぎしたおじいちゃんの顔には大きな笑顔が。
「ありがとう!ありがとう!そんな風にいってくれて。これからも花壇、楽しみにしとって!」
「はい!楽しみにしています」
これから仕事があるからと花壇を後にする私に、おじいちゃんは手を振りながらもういちど、
「楽しみにしとって~!!」
とても嬉しそうなその笑顔。お花の色とともに、いまでも心の中に残っています。
ある年から、千紫万紅だった花壇は、違う人がつくったと思われる一種類の花が咲くコーナーに変わりました。おじいちゃん、引っ越しちゃったのかな?花壇の作業が大変になっちゃったのかな?それとも…。
朝ゼンタングルを始めたら、ふと嬉しそうに手を振っていたおじいちゃんを思い出して。そのときの感謝の気持ちを紙の上に描いてみました。ゼンタングル講座でならったパターンの中からお花っぽいものを選んで。おじいちゃんを、緑色のかたつむりにしてお花の傍らに登場させました☆
誰かとのやりとり。嬉しかった気持ち。感動したこと。「思い出」という形のないものでも、ゼンタングルアートにしてタイル(紙)に気持ちを練りこんでみると。その作品をみたとき、自分の中に思い出がよみがえります。思い出タングル、いかがですか?