[大地震ニ付書簡] 〔高橋家No165〕        

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  一筆啓上仕り候。甚寒の節に御座候らえ共、先もって御両所様方、御安泰に御

 勤役なされ珍重の儀に存じ奉り候。随って私儀異義なく在勤仕り候間、憚りな

 がら御安意成り下さるべく候。右寒中見舞いとして、貴意を得べき為、かくの

 如に御座候。猶、重便の時を期し候。恐惶謹言

 

                    井上八十八

   十一月廿五日            春(花押)

 

 高橋忠左衛門様

 猪野新右衛門様

   参人々御中

 

  尚厳寒を以て、折角御目出なられ候様、専一の御儀に存じ奉り候。末筆

 乍ら、御家内様方へ宜しく仰せ上げられ成し下さるべきよう、頼み奉り候。

 

一 御用状、貴節に申し上げ候通り、当月四日・五日両度大地震、実に前代

 未聞の次第、誠に驚き入り候事に御座候。先々御地、当地とも別条これな

 く、何よりの安心に御座候。定めて江戸表においても御別条ござ無き儀と

 存じ奉り候。当地は当六月大地震の儀、その後日に震れ、大に心配仕り候

 所、追々相治まり隠に相成り候。後九月中、大坂天保山沖へおろしあ国船

 壱艘渡来、急束御奉行所より御沙汰にて、諸家、蔵屋敷詰めの面々出張い

 たし候につき、御用場にても御沙汰の程も計り難く、何時にても出張相成

 る様手当仕り、則ち私儀御用場に相詰め居り候所、先日御沙汰もこれなく

 退帆に相成り候えども、其後市中人気不隠、金・銀甚だ不廻りにて心配罷

 り在り候所、猶又、地震・津波等にて大混乱。尤、兼て御承知の通り、大

 坂表は諸国より入津の場にて、遠国とこれ有り、金銀融通宜しき所に御座

 候処、入船幷に地船とも数多く打ちくだけ、その上死人等多分にこれ有り、

 驚き入り候。折から諸国の地震・津波等の儀、追々申し参り、此の節の所、

 弥、不人気に相成り、当冬銀談向き甚だ差支え候次第に御座候。何卒程よ

 く都合仕り度、是のみ願奉り候。且私儀、当月五日出立にて、丹州御米払

 い出役の心組みに御座候処、大地震一条にて、相見合わせ候処、其後日々

 昼夜震れ、尤も帰領中幷に大坂御用場、その外別条の有無承り糺し候上、

 十日に出立仕り、同十九日、滞り無く帰着仕り候。丹州表は至って軽き事

 にて安心仕り候処、東海道筋、御地、同近辺、大荒れのよし、噂承り、猶

 心配仕り候処、この度の御用状にて安心仕り候。御文面の通り箱根山より

 東、江戸表の方へ無難の趣、何より安心に存じ奉り候。何卒此の上、静謐

 を願奉り候。且、右に右に書くも、来春より江戸表にて、都而(すべて)

 御取り入り御入用少々に相成り候様御相談これ無く候ては、実に差支え申

 すべき儀と存じ奉り候。右等の儀は追々御相談に及び申すべく候。且、大

 坂荒所の儀、委しく申し上ぐべく候処、今日出坂、最早来人等これ有り、

 寸暇もこれ無く、これに依って絵図面を差し上げ申し候。是にて御承知下

 さるべく候。余は重便万々(方々カ)申しあぐべく候。

一 大乱筆御推読下さるべく候。