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特集『健康診断のホント』(全18回)の#9では医師の津川友介・カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)助教授が「体にいい食事」と「悪い食事」を教える。科学的根拠のない健康情報に踊らされるのはもうやめにしよう。(構成/ライター 奥田由意)

「週刊ダイヤモンド」2020年4月4日号の第1特集を基に再編集。肩書や数値など情報は雑誌掲載時のもの


● 【体にいい】 究極の食は地中海食 5食材を素直に食べる

 医学的根拠に基づいた本当に体にいい食品5品目がある。ずばり「オリーブオイル、ナッツ類、魚、野菜、果物」だ。

 2013年に世界で最も権威ある医学雑誌の「ニューイングランドジャーナル」誌に発表された研究成果で、地中海食を食べている人たちは脳卒中や心筋梗塞に罹患したり、それが原因で死亡したりするリスクが低いことが示された。

 また、16年に発表された別の調査でも、地中海食を食べ続けた人は、そうでない人に比べてがんによる死亡率が14%低く、また、がんの発生率も4%低く、大腸がんになるリスクは9%低かった。さらに別の調査では、糖尿病になるリスクも30%低いことが明らかになっている。

 地中海食と聞いて、どんな料理か即座に思い浮かべられる人は少ないだろう。ギリシャ、イタリア、スペイン、ポルトガルの沿岸地域で食されてきた伝統料理だが、手の込んだ郷土料理を思い描かなくともいい。地中海食に主に含まれる食品は、冒頭に示したオリーブオイル、ナッツ類、魚、野菜、果物。この五つの食品を素直に口にすればよいだけなのだ。

 個別の食品でエビデンスを見てみよう。地中海食のシンボル食材、オリーブオイルやナッツ類では、それを摂取したグループはしていないグループに比べ、心筋梗塞や脳卒中を起こしたり、それで死亡するリスクが29%低かった。

● 魚は切り身一切れ分 生でも加熱でもOK

 また、67万人のデータを統合したメタアナリシスの結果では、魚は摂取量が多い人ほど死亡リスクが低いことが明らかになっている。ただし、1日の摂取量が60グラムを超えるとそれ以上摂取しても効果は変わらないという。

 魚なら、青魚でも白身魚でもマグロやサケのような赤身魚でもよく、熱を通しても生でもよい。60グラムはサケやサバなら切り身一切れくらいの量だ。ただし、イカ、タコ、貝、カニやエビなどの甲殻類は含まない。これらは特に害を及ぼすというわけではなく、中立的なタンパク源と位置付けられる。

 果物は1日の摂取量が1単位(バナナなら2分の1本、リンゴなら小玉1個)増えるごとに、死亡率が6%減り、野菜は1単位(小皿1皿分)増えるごとに、5%減ることが分かっている。

 食べれば食べるほど全死亡率(原因を問わず死亡する率)は減少するが、5単位(1日約350~400グラム)以上になると効果は変わらない。また心筋梗塞や脳卒中で死亡する確率も、野菜や果物の摂取量が1単位増えるごとに4%ずつ下がると報告されている。

 加えて主食としては、精白されていない玄米や全粒粉のパンなど、「茶色い炭水化物」がいい。78万8000人のデータを用いたメタアナリシスでは、茶色い炭水化物を食した人のグループはそうでないグループに比べ、死亡率が22%低かった。別の研究でも、心筋梗塞や脳卒中などの動脈硬化によって起こる病気のリスクが21%低いことや、さらに別の調査でも糖尿病のリスクが11%低いことが確認されている。

 日本食は健康にいい――。何となくそんなイメージを持っている人は多い。だが、実はその科学的根拠は弱く、「日本人の長寿の理由が食であるかどうか、はっきりしたことは言えない」と津川氏は言う。長寿の理由は遺伝子、運動習慣、行き届いた公衆衛生、高い教育水準などが考えられるからだ。

 なお、40年には日本の平均寿命は、地中海食を食べるスペインに抜かれると推定されており、分が悪い雲行きである。

 そうはいっても、ヨーロッパの人々とは人種や遺伝子が違う。日本人には古来の食べ物がある。「日本人が地中海食を食べても、効果はあまりないのでは?」と思われるかもしれない。

 だが、津川氏によれば「食事の健康に対する影響が、人種や遺伝子などによって異なるというエビデンスはありません。各国の専門機関はそろって“遺伝子を根拠にした食事療法にはエビデンスがないため推奨しない”という声明を出しています」。

 日本人は農耕民族であり、腸の長さが違うといった諸説にも、科学的根拠はないというわけだ。オリーブオイルやナッツ類などは日本古来の食品ではないが、やはり健康にいいと考えていい。

 ただし、注意点がある。野菜や果物は、加工されたピューレやジュースでは意味がない。果物としてのオレンジを取っても糖尿病のリスクは上がらないと考えられる一方で、オレンジジュースの方は糖尿病のリスクを上げるというデータがある。糖質の含有量は同じであるにもかかわらずだ。

 野菜ジュースについては、いいか悪いかというエビデンスそのものがない。野菜や果物に含まれる栄養素や繊維を成分として取ればいいのではない。「あくまでも食品で丸ごとを食べることが大切」というのが、データの示すホントであることを改めて心しよう。

 

● 【体に悪い】 諸説が飛び交う「卵」 正解は「週6個まで」

 特集#10『メタボ健診の受診者93%に何らかの異常ありの診断、正しい解釈法とは?』で詳しく説明するが、精白されていない「茶色い炭水化物」が健康にいい。日本人の主食、白米など精白された「白い炭水化物」は、残念ながら体に悪い食べ物となる。パンやうどんに含まれる精白した小麦粉も同じだ。数多くの研究から白い炭水化物は血糖値を上げ、脳卒中や心筋梗塞などの動脈硬化による病気を起こすリスクを高める可能性が示されている。

 食べ過ぎなければ大丈夫なのではなく、白米の摂取量が少なければ少ないほど糖尿病になるリスクが低い。エビデンスはそう示している。白米はできるだけ玄米などに置き換える。「白米イコール白糖くらいの認識の方がいい」というのである。

 なお、そばも茶色い炭水化物のカテゴリーに入るが、一般的なそばは「十割そば」など、そば粉の割合が高いものでない限り白い炭水化物の小麦粉の割合が高いものが多い。「そばのつもりで、実はそば粉入りのうどんを食べている」(津川氏)ことになり、注意が必要だ。

 主菜で体に悪いとされるものはハムやソーセージなどの加工肉と「赤い肉」である。赤い肉とは、牛や豚、羊、馬の肉を指し、ヒレ肉のような赤身の肉という意味ではない。なお、鶏は「白い肉」とされ、魚のように体にいいというエビデンスはない代わりに、害があるというデータもない。要は食べても問題のない肉であると津川氏は言う。

 そして、油。オリーブオイルのような不飽和脂肪酸ではなく、よく料理に使われるサラダ油やバターなどの飽和脂肪酸。これは体に悪いことが分かっている。塩分も特集#6『「最強のがん対策法」を医師が伝授!食事、たばこ、運動のウソ・ホント』で強調したように、日本人は取り過ぎ傾向にあるので気を付けたい。

 卵について気になる人もいるだろう。これまで、卵は「コレステロールが多いから1日1個」といわれたり、一転、「コレステロールは多くても問題なく、栄養素がそろっている卵は何個食べてもよい」といわれたり、諸説紛々だった。エビデンスに基づく“正解”は「週6個まで」である。

 それ以上食べると健康によくない。1日1個以上食べると、コレステロールとは関係なく、糖尿病を発症するリスクが42%も高くなる。また心不全を起こすリスクも高まる。ちなみに白身と黄身では含まれる栄養素が違うが、分けて食べたという調査データはないため、どちらなら大丈夫ということは言えない。

 最後に乳製品だが、取り過ぎは前立腺がんや卵巣がんの発症リスクを高めることがデータで示されている。逆にヨーグルトは糖尿病リスクを下げるというデータもあるが、乳製品は「ほどほどに」が無難のようである。

 ここまで見てくると、残念ながら、おにぎり、サンドイッチ、かつ丼や牛丼、うどん、焼き肉弁当、ハム、ソーセージの具のパスタなど、手軽にかき込める昼食候補は、軒並みアウトになってしまう。野菜小鉢が付いた魚定食で、白米は玄米に替えて……。「そこまで我慢したくない」「もっとがっつり食べたい」という皆さんも、無理することはない。まずはデータに基づくホントを知ることである。

 Key Visual by Kaoru Kurata

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最終更新:4/15(水) 6:01

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