第15話 中半 二人の男
殴り合いの喧嘩から、一ケ月後
ウヨンは家のリビングで新しいスマホを手にし、もうすぐ出版される写真集のご褒美だとご機嫌で、
新しいアプリで文字を打ち込んでいる。”成功しますように” 「綺麗だ~」
側にいた母「仕事熱心ね。恋愛はどうしたの?」 「しないわ」 「両方と別れたの?」
「一人は別れて、もう一人とは始めてもいない」 「待ってるって、あの手紙は? 一ケ月で諦めたのね」 「待たないでって言ったの…⁉ お母さん! 部屋を調べたの?」
「片付けが出来てたら、見ないわよ」 「死ぬまでこの家に居るわよ!」と部屋に引っ込むウヨン。
「本性がバレたら皆逃げるわね」 「若い時の君にそっくりじゃないか」
ウヨンの部屋、
あのカフェのテーブルに忘れた例の本を挟まれたスの手紙と引き出しから取り出す。
あの日、二人と別れて帰宅してみればポストにこの本が投函されていた。
スが近くのコンビニの外にいたのは、この本を返した後だったのだ。
手紙には、
「少しの間旅に出る。場所は国内だ。君の傍に居たら又くるしめてしまいそうで。
おとなしく待ってるよ。 酔った時でも、寂しい時でも 良かったら電話をくれ」
本を開くと黄色のマーカーが引かれていた文章は
”いつもガッカリさせてばかりだった” ”君の僕への好意も無下にしてしまった”
「君を知ろうと開いた本で自分の欠点を見つけた。欠点を直すにはもう遅すぎたのかな」
一方の旅先のイ・ス。 電話を待ちながら「もう、一ケ月になる。本当に終わったのかな?」
ウヨンのバイト先の茶店でヨンヒと
「明日が展覧会? 二人と一緒で大丈夫なの?」
「もう、終わったことだし平気よ」 「誰と?」 「二人ともよ」 「いつ?」 「私は早くに整理したし。
二人から連絡もないから」 「スは待っているんじゃないの?」
「自己中な奴が何も言ってこない。もう、忘れたのよ」 「何で言い切れるの?」 「分かるから」
「何を?」 「私もそうだった。私を好きだった人が他の人に出会って私にするのと同じことを相手にしているのを見たとき、バカみたいに嫉妬したの」 「フ~ン、欲しくはないけど、他の人には渡したくないみたいな?」 「その場だけ湧き上がる嫉妬の感情よ」 「スもそうだというの?」
「そう」 「本当に自分自身を分かってる? 絶対に間違っていない?」 「何で?」
「だって、それは全部あなたの主観でしょ?」 「自分の心さえ複雑なのに他人の心なんて読めるの? 誰かを理解していると思った時に限って誤解しているものよ」 「…」
ヨンヒは苦労人で、会社でも人に揉まれ人間観察が鋭い。時々にするアドバイスは的を得ていて頼もしい。そんなヨンヒがウヨンの勘違い?を浮き彫りにしてくれる。当事者には見えないことが多いのかな? 「今宵」の外でスの想いを知ったはずなのに、それで涙したはずなのに。それでもまだ信じられないでいる。用心深さなのかな?