祖母が死んだ。
私が 幼稚園年中の冬のことだった。
朝方、部屋のベッドで眠るように亡くなっていたのだ。
不思議とつらくなかったし、涙も出なかった。小さくしぼんだ祖母を、毎日間近でみていた私には、何か予感めいたものがあったのかもしれない。
祖母は大樹のような人であった。
毎日 友だちにいじめられていた私は、幼稚園が終わるとまっすぐに祖母の部屋へ行った。
一緒に将棋を使った遊びをしたり、同じ布団で寝たりして毎日を過ごした。
体が悪い祖母は、ずっと自分の部屋で過ごしていた。
あの部屋にはいつも祖母がいて、当たり前のように私を迎え入れてくれた。
だいぶ大きくなってから、「おばあちゃんは、お前の相手はしんどい」って言ってたぞと
父から聞かされた。
もう少し、祖母の体調を考えられる子どもであったらと、とても悔やまれた。
私は、世界一祖母が大好きだった。そして祖母も私をとても大切に思ってくれていた。
祖母と私 2人だけで過ごした時間は、誰かに愛されたいという欲を十分すぎるほど満たしてくれた。
でも、祖母はある日突然いなくなってしまった。
お葬式で長い箸を渡され、祖母の遺骨を取るように言われた。目の前には、焼かれた祖母の骨が無造作に置かれていた。
悲しみは、全くなかった。触れることも話もできなくなったが、以前のように、側に祖母の存在を感じていた。
「死んだけど死んでない」 そう思っていた。不思議な感覚だった。
そのお葬式で、ある出来事があった。
今でも ときおり、強烈な怒りと痛みを伴ってその場面を思いだす。
母と姉が、声をあげ鼻水も止まらない勢いで泣いていたのだ。