青い花 安房直子・作

わたしの好きな安房直子さんの作品。

青い花エプロン


裏通りのちいさな傘屋。

町中のこわれた傘が集まるお店。

そこで働く若者は傘作りの立派な腕前を持ち朝から晩まで持ち主のために傘を直す日々。


傘屋の主人には欲しいものがたくさんありました。

働いたお金で

〈屋根の修理をしよう〉

〈窓に新しいカーテンを掛けよう〉

〈油絵の具を一箱と、新しいギター〉

真っ白いカーテンをかけることは長い間傘屋の主人の憧れでした。



こつこつと貯めたお金を持って町に買いに出かけると、

雨にぬれ、ぽつんとたたずむ、水色の服を着たちいさな女の子。


「ぼくが新しい雨傘を作ってあげよう。」


傘屋は傘のこととなると人一倍夢中になるのでした。


女の子の傘を作るため、デパートの生地売り場へ。

女の子が選んだのは白いカーテンの三倍のする青いきれ。


傘屋の主人は女の子のために、早く帰ってとびきり上等の傘を作ろうと思いました。


屋根の修理と、

白いカーテンと、

絵の具とギターのことはすっかり忘れて、、


傘屋はできあがったちいさな青い傘を開いてみました。

なんと素晴らしい色。

それはあの日の海の色、

雨上がりの青い空の色。

まるでちいさな青い屋根の家の中みたい。

自分の腕前もなんて素晴らしいのだろうと傘屋は思います。




そのできあがったかさを女の子に届けてから不思議なことが起こりました。

たくさんの「青い傘」を待ち望む注文です。


眠る暇も無く、青い雨傘をつくり、修繕を頼みにくるお客にはわき目もふらず仕事をし、青い傘は町にあふれるようになります。



こわれた傘はひとつも直っていません。

誰の傘をあずかったのかもよく覚えていませんでした。



一層お金持ちになり、いそがしいと言い訳をしながらも自分の腕前には自信がありました。



骨が折れ、穴の開いた傘を見るのも嫌になり、いつしか上等のレースのカーテンがかかりました。


そして今度は新聞に新しい傘の流行を知らせる広告が。


雨の日には、

レモン色の傘をさしましょう。


その日から青い雨傘の注文は減り、小さい傘屋にくるお客はだあれもいなくなりました。

ただそこには、疲れはてた傘屋がぼんやりと座っていました。

自分はどれだけ沢山の傘をなにも思わずにつくってきたことだろう。

海の色にも、

空の色にも似ていない、

ただの雨傘がどれだけ町にあふれたのだろうと我に返ります。


ある日のこと、店に初めて青い傘をプレゼントしたちいさな女の子が現れます。

女の子の雨傘は骨の折れたまま隅っこに放り出されていました。


その夜女の子に頼まれていたこわれた傘を、明日の朝届けると約束し、丁寧に直しました。

それは一番最初にまごころを込めて作った雨傘。



次の日その傘を抱えて、水色の服を着たあのちいさな女の子だと思って近づいてみると、それは雨にぬれる大きなまりのように咲くあじさいの花でした。



心を込めて作ること、大切にする心、

心があたたかくなる感覚を、忘れないでいたい。 

それは大切な人や、仕事、ものに対して。


余力を残して次に進めば、どんなささやかな存在にも心を重ねることができる。

少し物悲しさが垣間見える、美しい作品です。

来年も曲がり角のちいさな女の子(あじさい)に出逢えるかな。あじさい


もう出会えない絶版の本に出会えるとき。

それはちいさな図書館の楽しさでもあります。