筆者は先日、ドイツ・ベルリンで実施されていた家電の総合見本市イベント「IFA 2019」の取材に行っていたのですが、そこで大きな注目を集めていたデバイスの1つが、サムスン電子の折り畳みスマートフォン「Galaxy Fold」でした。
▲さまざまなトラブルによって販売が延期されていた「Galaxy Fold」。ようやく販売を開始したことから、今回のIFAではハンズオンできる形で一般公開されていた
Galaxy Foldはその斬新な機構で発表直後から大きな注目を集めましたが、事前のレビューでトラブルが発生したことで販売が延期となっていました。ですがその後改良が図られ、IFAの開催に合わせて韓国で販売が開始されたことから、ようやく多くの人に披露できるようになったようです。
筆者も現地で実際にGalaxy Foldに触れてみましたが、やはり1枚のディスプレイを折り畳めるという感覚は今までにないもので、大きな驚きがありました。他の方が「感動した」と話すのもうなずける出来に仕上がっていると思うので、日本上陸にも期待したい所です。
とはいうものの、冷静に考えるとなぜスマートフォンのディスプレイを折り畳む必要があるのか?という点には疑問を抱く部分もあります。Galaxy Foldや、ファーウェイ・テクノロジーズの「HUAWEI Mate X」を実際に体験した身として、技術的な凄さや驚きを感じたのは確かなのですが、一方で大画面が欲しければスマートフォンとタブレットを2台持ちした方が、価格的にも現実的では?と思ってしまうのです。
それにもかかわらず、ディスプレイを折り畳めるスマートフォンに取り組む企業は増えているようです。実際シャープは2019年4月に、折り曲げられる有機ELディスプレイを報道陣に披露していますし、中国の家電・スマートフォンメーカーであるTCLも、2019年のMWCやIFAで傘下のチャイナスター(CSOT)が手掛ける有機ELディスプレイを使った、折り畳めるスマートフォンのような端末のデモを公開しています。
▲TCL傘下のCSOTも、折り畳みスマートフォン用の折り曲げられる有機ELディスプレイを開発していることをアピールしている
なぜ各社がそこまでして、ディスプレイを折り畳めるスマートフォンの開発にこだわるのでしょうか。理由の1つは、コンパクトさと大画面を両立するという、消費者の矛盾したニーズに応えるためでしょう。
初代iPhoneが登場した時は3インチ台だったスマートフォンのディスプレイも、今や6インチ台が当たり前。5インチは"コンパクト"というほどまでに大型化していますが、それはスマートフォンで利用するコンテンツの幅が広がったことで、大画面に対するニーズが高まったが故といえます。
とはいうもののディスプレイを大きくすれするほど、横幅が広がり片手では持ちにくくなってしまいます。かつてディスプレイの比率がテレビと同じ16:9であったのが、最近では18:9や19:9、21:9といったように縦長化が進んでいるのは、ある意味大画面とコンパクトさを両立するための苦肉の策ともいえる訳です。
▲サムスン電子の最新スマートフォン「Galaxy Note10+ 5G」。ディスプレイは6.8インチと、7インチに迫るサイズにまで達している
ですがディスプレイを縦に長くするのにもそろそろ限界が見えてきていることから、1つのデバイスで大画面とコンパクトさを両立するには新たな発想が求められていました。それゆえ、折り曲げられる有機ELの特性を生かした折り畳みスマートフォンの研究開発は以前から進められており、技術が追い付いたことでようやく日の目を見るようになったといえるでしょう。
しかしながら、メーカー側にとってより大きな理由と考えられるのは、スマートフォンの低価格化にあるといえます。かつてはハイエンドモデルでなければ満足な性能を発揮できなかったスマートフォンですが、現在は技術の進化によって、3万円台のミドルクラスのスマートフォンであってもそれなりに満足できる機能・性能を持ち合わせるようになっていますし、ローエンドの端末も従来は考えられないくらいまで進化を遂げているのが現状です。
▲モトローラ・モビリティが発表したスマートフォン新機種「moto e6 plus」。価格は1万6000円のローエンドモデルながら、デュアルカメラを搭載するなど高性能化が図られている
ですが消費者が低価格のスマートフォンで満足してしまうと、メーカーにとっては利益率が高い高額なスマートフォンが売れず、利益を出すのが難しくなってしまいます。ゆえにスマートフォンの低価格化が進んだ現在は、中堅クラスのスマートフォンメーカーが軒並み赤字となり、かつて勢いのあった中国メーカーも勝ち組と負け組に分かれつつあるなど、厳しい市況となっているのです。
そこでメーカー側は利益を落とさないため、高額であっても消費者が購入したいと思う魅力的なスマートフォンを開発することが強く求められています。その1つの基軸として、高額でもインパクトが大きい折り畳みスマートフォンが浮上したといえそうです。
そうしたさまざまな背景もあって盛り上がりつつある折り畳みスマートフォンですが、ここ最近それとは異なる形で、ディスプレイを大きくしようという動きも見られるようになりました。それはスマートフォンにディスプレイを"付け足す"というものです。
日本で販売されているスマートフォンであれば、エイスーステック・コンピューターのゲーミングスマートフォン「ROG Phone」がその代表例といえるでしょう。ROG Phoneはスマートフォン本体に周辺機器を追加することで2つ目のディスプレイを追加し、2つのディスプレイを活用した新しいゲームプレイの提案をしています。
▲ROG Phoneは専用のドックを装着してディスプレイを2つに拡張できる仕組みが注目を集め、国内未発売の「ROG Phone2」にも同じ仕組みが引き継がれている
同様の取り組みを、より一般的な形で推し進めているのがLGエレクトロニクスです。同社が海外で販売している5G対応スマートフォン「LG V50 ThinQ」や「LG G8X ThinQ」は、専用のアタッチメントを装着することで2画面ディスプレイを実現、2つのディスプレイに異なるアプリを表示したり、一方のディスプレイをキーボードやゲームコントローラーにしたりできることを大きな特徴としてアピールしています。
▲LGエレクトロニクスの「LG G8X ThinQ」も、専用のアタッチメントを装着してディスプレイを2つに拡張できる仕組みを備えている
これらはかつてNTTドコモが販売していた「M」などとは異なり、2つのディスプレイを1つにして使うのではなく、2つのディスプレイをあくまで別々に使うことで、利便性を高めるというのが大きなポイントとなります。あくまで折り畳みスマートフォンとは異なるアプローチではあるのですが、コンパクトなスマートフォンでいかにディスプレイを広くするかという意味では、共通する部分があるといえるでしょう。
とはいえ、折り畳みスマートフォン、2画面スマートフォンともに、現状ハードにアプリやコンテンツが追い付いていないというのも正直な所で、ディスプレイは広くなったものの、それをどう活用するか?という点については各社ともに試行錯誤が続いている印象を受けます。それができなければ「タブレットでよくね?」となってしまうだけに、今後はソフト面での取り組みが注目される所です。
▲Galaxy Foldで動画を視聴している所。多くの動画は16:9など横長の比率なので、開いた状態では4.2:3比率となるGalaxy Foldでは上下に黒帯が出てしまう