2019年6月3日に、スクウェア・エニックスが「ドラゴンクエスト」の新作として、位置情報を活用した「Dragon Quest Walk(ドラゴンクエスト ウォーク)」というゲームを発表し、大きな話題となったようです。実は筆者は長年にわたって位置情報ゲームに関する情報を追いかけていたりするのですが、今回はその位置情報ゲームについて過去の歴史を紐解きながら、他のゲームにはない特徴と、抱える課題について追っていきたいと思います。

▲スクウェア・エニックスが発表した「ドラゴンクエスト ウォーク」。2019年内に配信開始予定

携帯電話向けの位置情報ゲームといえば、今では米ナイアンティックの「Pokémon GO(ポケモンGO)」が最もよく知られているかと思います。ポケモンGOの大ヒット以降、位置情報ゲームに対する関心は大きく高まっており、最近ではナイアンティック以外からも位置情報を活用したゲームが出てきているようです。

ですが日本では、位置情報ゲームはフィーチャーフォン時代から20年近くにわたって提供されており、意外と長い歴史を持つ存在であったりもします。その元祖は、携帯キャリア・ソフトバンクの前身の1つに当たるJ-PHONEが2000年に提供していた、位置情報を活用した情報配信サービス「ステーション」の上で提供されていた「誰でもスパイ気分」(ドワンゴ)や「クリックトリップ」(バグジィ)だと言われていますが、位置情報ゲーム自体の存在を広く知らしめたのは、やはりドラクエウォークを共同開発しているコロプラの、「コロニーな生活☆PLUS」ではないでしょうか。

位置情報ゲーム▲2010年11月のコロプラ・KDDI提携発表会より。コロプラは元々、「コロニーな生活☆PLUS」など位置情報ゲームで人気を獲得してきた企業だ

現在でこそスマートフォンゲーム大手として知られるコロプラですが、元々は創業者の馬場功淳氏が2003年に、DDIポケット(後にウィルコム、ソフトバンクの前身の1つ)のPHSによる位置情報サービスを活用したブラウザゲーム「コロニーな生活」を個人で開発。それがPHSユーザーの間で人気となったことが創業へとつながっている、位置情報ゲームと非常に縁が深い会社なのです。

実際、2005年には現在にも続く「コロニーな生活☆PLUS」を立ち上げており、2008年に法人化を果たして以降は、位置情報ゲームの略称として使われることも多い「位置ゲー」の登録商標を取得したり、「LAP」と呼ばれる位置情報ゲームのプラットフォームを立ち上げたりするなどして位置情報ゲームの事業を強化。「白猫プロジェクト」などスマートフォン向けのヒットゲームを生み出すまで、同社の中核事業となっていたのです。

そしてもう1つ、当時コロプラが注目されたのは単に位置情報ゲームを提供しているからというだけではありません。同社は地方の名産品を販売する店と提携し、そこで商品を購入すると「コロカ」と呼ばれるゲームと連動したトレーディングカードが手に入るという仕組みを用意し、店舗への送客を実現していたのです。移動しないと楽しめないというゲームの特性を生かしたO2Oマーケティングビジネスを展開していたことも、注目された大きな理由となっていたのです。

位置情報ゲーム▲コロプラは全国の老舗店舗と提携し、買い物をするともらえる「コロカ」を提供するなどして送客を実現するO2Oマーケティングにも力を入れていた。写真は筆者所有のコロカ

その位置情報ゲームが、大きく変化したのはスマートフォン時代に入ってからのこと。2012年にグーグルの社内ベンチャーだったナイアンティック・ラボが提供した「Ingress」がヒットしたことで、再び位置情報ゲームが脚光を浴びることとなります。Ingressは熱狂的なファンを生み、世界各地でリアルイベントを開催するなどして大きな注目を集めました。2016年に東京で実施されたイベントでは1万人を超える集客を実現していたことからも、その人気ぶりをうかがうことができます。


位置情報ゲーム
▲スマートフォンの位置情報ゲームとして人気となった「Ingress」。2016年のイベント「Aegis Nova Tokyo」では1万人を超えるエージェント(プレーヤー)が集まるなど高い人気を博し、現在もなお熱狂的なファンを抱えている

ナイアンティック・ラボはIngressのヒットを機として、ナイアンティックとしてグーグルから独立を果たすとともに、ポケモンGOを生み出して社会現象にもなるほどの大ヒットをもたらしたことで、一躍位置情報ゲームのトッププレーヤーとなりました。現在はハリー・ポッターシリーズの世界を舞台とした新しい位置情報ゲーム「ハリー・ポッター:魔法同盟」を開発しており、その登場も注目される所です。

Ingressをはじめとしたスマートフォンの位置情報ゲームが、フィーチャーフォン時代から大きく変化した点は"リアルタイム性"にあります。フィーチャーフォン時代の位置情報ゲームは基本的にブラウザゲームで、リアルタイムに位置情報の取得ができなかったことから、ゲームをプレイするには"移動して場所を登録する"という作業が必要でした。ですがスマートフォンのゲームはアプリベースで、リアルタイムに位置情報を取得できることから、リアルタイムでの対戦プレイを実現するなどより高いゲーム性を実現できるようになったのです。

一方で、フィーチャーフォン時代と変わらないのが、プレーヤーが移動することを生かしてマーケティングや観光支援などを実施している点です。実際Ingressは、これまでにもローソンや伊藤園の自動販売機などとのタイアップを実施していますし、ポケモンGOではマクドナルドやセブンイレブンとのタイアップで店舗を「ポケストップ」にしたり、イベントを実施したりするなどして、集客につなげる取り組みをしています。

位置情報ゲーム▲2016年4月に福島県相馬市などで実施された「Ingress Initio Tohoku Mission」より。ナイアンティックは人が移動するというゲームの特性を生かし、東日本大震災などの復興支援イベントなども実施している

ちなみに位置情報ゲームは、長い期間ゲームをプレイする、コアユーザーが定着しやすい傾向にあるというのも特徴的なポイントとなっています。筆者はかつて、マピオンの位置情報ゲーム「ケータイ国盗り合戦」のイベントを取材した際、ゲームを攻略するため日本全国を何周もしたという人を多く見かけましたし、IngressやポケモンGOではそれが世界規模に広がっている状況です。そうしたプレーヤーの熱狂ぶりも、位置情報ゲームがマーケティングに活用されやすい要因の1つといえそうです。

ですがこれまでの位置情報ゲームを見ていると、弱点もいくつかあるように見受けられます。"歩きスマホ"などマナーに関する問題もその1つではあるのですが、より本質的な問題として、長距離を移動しないと楽しめないことからプレーヤーの幅が狭まってしまいやすいというのが、大きな弱点といえます。

位置情報ゲームは移動する範囲が広いほど楽しみが広がる仕組みのものが多いですが、そうした広範囲の移動ができるのは、ある程度の可処分所得と時間を持つ人や、出張が多いビジネスマンなどに限られます。一方で、スマートフォンゲームの主要ターゲットでもある学生や主婦などは移動範囲が狭い上、その範囲も住宅地や学校などに限られるのですが、そうした場所は"珍しくない"ことや、安全上の理由もあって位置情報ゲームでは重要なスポットとなりにくいため、彼らはゲームを楽しみにくく"蚊帳の外"になってしまいがちなのです。

そしてもう1つ、都市部と地方とでプレーヤー間の格差が開きやすいというのも、大きな課題といえます。IngressやポケモンGOなどでも、ゲームプレイに重要なスポットの都市部が多くを占めている一方、地方でにはそうしたスポット数が少なく、ゲームプレイのため一層長い距離を移動しなければならいことが、不満として挙がっています。移動範囲の広さや住んでいる場所の違いでゲームの有利・不利が決まってしまうという問題をどう解消するかというのは、位置情報ゲームを拡大する上では非常に大きなポイントとなっている訳です。

そうした意味でも、ドワンゴが提供していた「テクテクテクテク」の、歩いた場所を塗りつぶすというアイデアは注目に値するものだったのですが、残念ながら同ゲームはドワンゴ自身の事業不振もあって、2019年3月に終了してしまいました。その後に登場したドラクエウォークに関しても、発表時に都市部と地方との格差が生まれないよう配慮がなされるとの話が出ていたことから、いかに従来の位置情報ゲームが抱える課題をクリアし、プレーヤーの幅を広げてくれるかが注目される所です。