海外でEstate・Trustから財産をもらった場合には、日本の所得税の確定申告にも気を付けて!
先日、勤め先で受任している海外の相続税申告で、とある事情から所得税の期限後申告を行いました。遺産の引継ぎの考え方日本の場合、遺産の引き継ぎ方は「包括承継主義」という考え方が取られています。亡くなった人の持っていたプラスの財産もマイナスの債務もすべて、何の手続きもなく相続人に引き継がせる考え方です。一方、アメリカ・イギリス・香港・シンガポール・カナダ・オーストラリア・ニュージーランドなどでは、亡くなった人の遺産の引き継ぎ方について「管理清算主義」という考え方が取られています。管理清算主義の場合、亡くなった人の遺産は相続人ではなく、一度、「遺産財団(Estate)」に引き継がれます。現地の裁判所によって任命された遺産財団の代表者(現地の弁護士が選任されることが多いです)が、裁判所の管理のもと、亡くなった人の財産と債務の調査を行い、必要な場合には遺産を売却して諸々の税金や債務の支払を行います。諸々の税金や債務の支払いが終わった後の残りを、相続人の方に分配します。この手続きのことをプロベート(Probate)と言います。プロベート手続きプロベートにかかる期間は早くても1年、長いと3年ほどかかるともいわれています。また、その費用も遺産額の3〜5%程度と言われています。3〜5%程度と言われてもピンとこないですよね。例えば、現地に5,000万円の財産があった場合、財産の分配を受けるためには150万円〜250万円の費用がかかります。なかなかの金額ですよね。。このため、プロベートが行われる国ではこういった手続きを回避するために、ジョイントテナンシー(Joint Tenancy)・ジョイントアカウント(Joint Account )・POD(Payable on Death)口座・TOD(Transfer on Death)口座など、プロベート手続きを回避するための商品が色々とあります。また、海外ではリビングトラスト(Living Trust)という「信託契約」を設定し、「受益者」に財産を渡したい人を設定することによりプロベート手続きを回避することも一般的に行われています。信託契約??? 受益者??? と思われた方もいると思います。リビングトラストについては、長くなってしまうので、別の記事でご紹介します。遺産の売却このプロベートでもリビングトラストでもよく行われるのが、遺産の売却です。例えば、亡くなった方が持っていた、ご自宅・株式や投資信託・IRA(退職後の生活をケアするためのアメリカの積立て型の個人年金)などです。遺産の売却が行われれば、税金のことを考える必要があります。もっとも、現地で発生する税金については、遺産財団の代表者やリビングトラストの受託者が、現地での税金の申告と納税を手配するため、財産をもらう人はあまり「現地の」税金の申告と納税を意識する必要はありません。ところが、海外の遺産を受け取る人が日本に住んでいると事情が違ってきます。日本に住んでいる人の場合、日本の所得税と住民税は全世界課税(どこの国で発生した所得も日本の税金の対象となる)になります。日本では、遺産財団に相当する存在はありません(正確に言うとそれっぽいものはあるのですが、使われるケースはそう多くありません)。この場合、「実質所得者課税の原則」という税法独特の考え方が持ち出されて、実質的に利益を受ける人(=海外の遺産を受け取る日本居住者)に対し、日本の所得税・住民税が課税されてしまいます。リビングトラストの場合にも、別の考え方(信託の場合には、原則として「受益者」という利益を受ける人に所得を帰属させる)という考え方により、やはり日本に住んでいて海外から財産をもらう人に対し、日本の所得税・住民税が課税されてしまいます。気づきにくい日本の確定申告何が言いたいのかというと、日本に住んでいる人がプロベートやリビングトラストによって海外の財産を受ける場合、往々にして日本の所得税の確定申告が必要になってしまうことがある、ということです。この件が厄介なのは、所得税の確定申告が必要というのは、一般の人にはものすごく気づきにくいということです。海外の遺産をもらったので相続税申告が必要かも?ということでお問い合わせを頂くことは、私たちも往々にしてあります。しかし、プロベートやリビングトラストの手続きの中で遺産が売却されていて、なおかつ、それについて日本の所得税の確定申告が必要だと気づいてください、ということを一般の方に求めるのは、相当ハードルが高いと思います。また、プロベートやリビングトラストの受託者(海外の弁護士など)にそういった日本の税金のアドバイスまで求めるのも、それも酷なのかな…とも思います。では、結局のところどうしたらよいのか?ですが「(国際相続に慣れた税理士に)お早めにご相談ください」ということになります。最初の所得税の期限後申告の話に戻りますが、私が受任した時にはすでに確定申告期限を超えてしまっていたためやむなくの期限後申告になってしまいました。。国際相続は、一般の方では気づきにくい論点があります。「海外の財産のリストが固まってから」「海外の財産の分配を受けてから」ではなく、お早めにご相談いただくほど打てる対策が増えます。今日も、最後まで読んでいただきありがとうございました。