「栄光のバックホーム」
令和5年7月18日に亡くなった、元阪神タイガース横田慎太郎氏の実録。
感想としたら、物語を終始動かしたのは鈴木京香演じる母親であった。また、脇を固めるベテラン勢も主役を大いに助けるいぶし銀であった。本人(掛布や川藤)と似てないという声もあるらしいが、川藤役の柄本明は顔以外は全て似ていたと思う。
以下は少々意地の悪い映画批評になるので、この映画に感銘を受けた方や、期待に満ちて観に行こうとしている方は、読まないほうが良いです、
誤解なきに言えば筆者は横田慎太郎氏を尊敬しているし、病との闘いを決して軽んずるものではない。
まず第一に、残念なのは母を盛り上げたいが故か、父の存在の希薄さだ。元ロッテでベストナイン2回のスター選手横田真之。役者も高橋克典とスターであったわりには勿体無い脚本だった。母に説教されて涙ぐむ姿や、母や姉が横田と感激し語り合う病室に入れず、外で涙ぐむ弱い父親像は大変残念だ。
次にこんなことは言いたくないが、最も重要だから敢えて言う。主演は新人の松谷鷹也。ダブル主演の鈴木京香との力量差がありすぎた。よく言えば朴訥な青年を演じたつもりだろうが、棒読み感が否めないし、表情や感情表現の乏しさも見られた。
更に脚本を見ても、横田の病気に立ち向かう断固たる気概、雄々しき剛健さ、は見られない。常に悩み嘆く弱さを強調していたのは、物足りない。気落ちし生きがいを失うたびに母親から励まされて回復するシーンの多さは、25歳の割には幼さが目立つ。
結果、鈴木京香の存在感に完全に飲まれる、というアンバランスが目立ってしまった。
鈴木京香は台詞回し、表情の含み、立っているだけの説得力が別格だから、隣で横田の弱さが丸出しになるのは避けられなかった。
キャスティングの狙いは、制作側としては恐らく「爽やかさ」「ひたむきさ」「素朴さ」=横田像に近い新人を起用、スター俳優だと事実性が飛ぶ、という判断があったかも知れない。
然るに、結果的には実力差が物語の説得力を削いだというパラドックスになってしまった。
実録ゆえ、最低限の感動をもたらすことはできたが、、横田慎太郎という“雄々しさを秘めた野球職人” の本質が伝わらなかったのは重ねて残念である。
