AKB48 自作小説

AKB48 自作小説

AKB48メンバーを題材とした自作小説を書いてます。
お暇でしたら読んでやってください

Amebaでブログを始めよう!

お久しぶりです

少々ゴタゴタしておりまして書けない状況にいました


見ていてくださった方がいましたら大変申し訳ありませんでした


今日、明日あたりから再開したいと思っています。



前田敦子はチームAのエースだ



前田敦子のエースたる所以はその速球でも変化球でもコントロールの良さでもない

前田は一つ、大きな強さがあった



前田の強さは感情を押し殺す強さだった



どんなピンチでも表情を崩すことなくただ淡々とキャッチャーの指示に従って投げる

感情を押し殺すことを「やる気がない」「ただの人形じゃないか」「勝てばいいってわけじゃない」などと心無い声をかけられたりもした


そんな声は無視すればいい


とみんなは言ったがまだ20歳になったばかりの女の子

いくら我慢してもそのプレッシャーや声に押しつぶされてしまうこともあった

その度そんな前田を支えてきたのは高橋みなみだった。

途中で篠田に正捕手の座を明け渡してしまっても、前田を励まし続け、前田と共に戦い続けた


困難を乗り越えるたび、前田は強くなり、大きくなり、進化していった。

そして身についたのが逆境を乗り越える力

相手が強ければ強いほど、バッシングやブーイングが強ければ強いほど、試合が不利であればあるほど

前田の球は速くなる


いつしか前田は「唯一無二の孤高のエース」とよばれるようになった






フォークの投げすぎで握力が弱くなり


新加入のほとんど情報のないバッターに同点スリーランを打たれ


雨が降り出した




圧倒的に不利な状況

これが前田を強くする



圧倒的なまでに

大家の声と高橋の声で暗い雰囲気を一蹴したチームAはそれぞれ声を掛け合いチーム全体を鼓舞する

それに応えるようにペースを上げて投球する前田


しかし、その流れによって握力が回復するなんてことはなく、自然に高速スライダーで勝負をかけることが多くなった


次第に目と体が慣れてきたチームKのバッターたちはヒット性のあたりがで始める



先頭の大島優子もまたしかり


「一発目の花火、らんらんに取られちまったからなぁ。二発目の花火はあたしがいただいちゃおう!」

「逆転の一発ってことで」


ストレートをコーナーに散らし、変化球を織り交ぜ、懸命に投げる前田

その顔からは以前のような無関心な表情は消え去っていた


そんな前田に大島が牙を剥く

乾いた音を残し打球をライト前に運ばれる



続くバッター峯岸

通常は送りバントでランナーを得点圏に進め三四番で返すのが定石なのだが、流れが来ていると踏んだ秋元は強行策に出ることにした


(才加・・・ノーアウトなのに自由に打たせてくれるんだ。じゃあ期待に応えないとね)

打ての指示を貰った峯岸は舌をぺろりとだし挑発的に笑う


そんなこともお構いなしに投球する前田


「うらぁ!!」


峯岸の放った打球が早いライナーでサードを襲う

高城がグローブを弾かれながらも必死に抑えワンアウト


「くっそー!!」


悔しそうに叫ぶ峯岸に優しく声をかける宮澤


「やっぱ佐江ちゃんはイケメンだね」


「じゃあ、イケメンの佐江ちゃんがホームラン打ってやんよ」

爽やかなイケメンスマイルを残しバッターボックスへ向かう宮澤

峯岸に向けた優しい笑顔とは裏腹にバッターボックスでは真剣な表情で前田を見つめる



「ファール」


何球も何球も食らいつく宮澤

何球も、何球も


すると雲が立ち込め始めポツリポツリと雨が降り始めた


「雨・・・」



(あっちゃんの雰囲気が変わった?)


傍目には全く変化のない様だったがバッターボックスに立った宮澤は少し違和感を感じていた


普通雨が降ると球が滑って手につかなくなったり打球が変わったりと守備側は予期せぬ事態に襲われることが多い

投手はその影響を一番にうける


しかし


前田は違った

球速は上がり変化球のキレが上がる


「くっ」


変化球のキレについていけず引っ掛けてしまう宮澤

ボールはピッチャーゴロ

前田は冷静にセカンドへ送りゲッツー


長い長い六回の攻撃が終わりを告げる



        1  2  3  4  5  6  7


チームK   0  0  0  0  0  0


チームA   3  0  0  0  0  

バックスクリーンでボールが二度跳ねた当たりでチームKの面々はやっと事態を飲み込めたようで騒ぎだし、帰ってきた山内に手厚い歓迎をする


「やるじゃねーか!!」

「ナイスバッティング!!」


色々な言葉をかけられながらヘルメットをバシバシと叩かれる山内

その表情は嬉しさと気恥しさと興奮が混ざり頬はやや紅潮していた


ひとしきり手厚い歓迎を受けたところで山内は島田に声をかける


「なに固くなってんだよ。はるぅ。あんたがチーム4のことを背負っちまうのは構わないけど、野球を楽しまなかったら意味無いじゃん。」


「あんたより打率もホームラン数も少ないあたしが打てたんだ、はるぅだって打てるよ」


「あぁ、そうだな。せっかく前田さんなんていうすごいピッチャーと対戦できてるんだ。楽しまなくちゃな」


島田は少し吹っ切れたように笑い、山内に手を差し出しハイタッチを求める


「らんらんのくせにナイバッチだったよ」


「ふふっ。うるせーよ島田」




バックスクリーンをチラッと見て前田はまたいつもの顔に戻った

ホームランを打たれたのは正直驚きだが、今更悔いても仕方ないし、正々堂々と戦っているのだから打たれてしまうことだってある。

チームメイトも切り替えてくれるだろう。



気持ちは一瞬で切り替えることができるし、道具も次の道具に変えることができる

しかし、体力は一瞬では戻らない。

先程からフォークの連投で前田の握力は限界まで来ていた

あまり手の大きくない前田はフォークを投げるため大きな無理をしていた

必死に人差し指と中指に挟んで掴んで投げ込んでいた

今までウイニングショットといえば高速スライダーで、それで十分打ち取れていたのだがチームK相手にはそれが通じず、抑えるために普段あまり多投しないフォークを何球も何球も投げてしまったことで前田の握力が限界が近づいていた



(やられた・・・まさかあんな撃ち方するなんて・・・)

長打警戒とゴロで打ち取りたいと簡単に予想できるあの場面でもまさかあっちゃんの球をあっさりと打たれるなんて・・・



チームAにホームランを打たれたこと自体に意気消沈しているものはいなかった

あの絶対的エース「前田敦子」が打たれたことに意味があった

どんな逆風でも、どんなバッシングを受けてもただマウンドに立ち続け投げ続け勝ち続けた前田が打たれてしまったのだ

キャプテンの高橋みなみでさえもうつむいて呆然としている






「うつむいてる時間なんてないよ!!」

「まだ同点になっただけじゃないか!!もう勝つことを諦めたんか?」

「チームAは負けない!!」

「声出して!!たかみな!!キャプテンだろ!!」



ベンチからメガホン片手に身を乗り出し大声を張り上げる選手がいた

大家志津香

48グループの練習生として長い間昇格できず明日の見えない日々を見てきた博多娘

なんども解雇されそうになったが死にものぐるいで練習し、その練習している姿に心打たれた篠田と小嶋によって選手生命を立たれそうな危機も乗り越え、チームAの一員として戦っている選手。



大家の声で我に帰る高橋


「しーちゃんのいう通りだ!!」

「まだ同点、初回と一緒じゃないか!!」

「いくぞーチームA!!」



高橋の声に戦意を取り戻したチームAの選手たち


「しーちゃんかっこいい・・・」

そんな大家の背中を見ていた前田亜美が呟く


「やろ?野球はみんなでやるもんやけん。うちにもできることはある。ベンチのみんなもや。さあ!!声出してこう!!!」





「しゃー!!」


トリプルプレイの余韻を楽しむかのように声を張り上げ興奮気味にベンチへ下がるチームKの面々


「さっきのピンチを無失点で乗り切れたのはすごく大きい!!」


「点数を上げるのは今しかない!!追いつけ追い越せだ!!いくぞーチームK!!」


「おお!!」



そんなチームKの選手たちの雰囲気とは裏腹に板野は冷静だった。

しかし、冷めているのではなく静かに闘志を燃やしていた


(あっちゃんの球、ともは当てることできるけど・・・フォークもあるみたい。どうしよう)



(さっき一点も取れなかったのは痛いな・・・みんなのモチベーションも下がってきてるみたいだし)


(ここは少ない球数で切り抜けたほうがいいな)


(一気に行くよ、あっちゃん)



篠田のサインに微妙に表情を歪ませながらも頷く前田


(あっちゃんの表情が曇った?)その小さな変化を見逃さない板野


前田の手から放られた球はフォーク、空振りをしてしまう板野


(そう簡単には打たせてくれないか・・・)


次のサインには今までどおりの表情で頷く前田

次に来たのはストレート。これをカットする板野


また無表情で頷く前田

次に放られたのは高速スライダー

三振を狙ったストライクからボールになる軌道で飛んできたのをぎりぎりバットを引いて見る板野


四球目のサインにまた微妙に表情を歪ませる前田

前田の手からフォークが放たれる

(またフォークか!)

板野がスイングする。三振かと思われたが板野のバットにわずかにあたる


(フォークの落差が前ほどじゃなくなってる?)

(しかも、フォークを投げるときだけ表情が若干曇ってるし・・・)


(フォークを当ててきてるけど・・・ここで連続でウイニングショットであるフォークが来るとは思わないはず・・・)

(もう一球フォークだよ、あっちゃん)


(あっちゃんの表情が曇った・・・次に来るのはフォークだと・・・いやフォークのはず!)


前田が放ったフォークを華麗にヒットする板野

打球はセンターへ


板野のヒットに沸き上がるチームKベンチ



(バッティングが苦手な梅ちゃんだけど交代してショートを穴にしてしまうのは不安だ・・・ここは変えずに梅ちゃんを信じよう)秋元が決断すると梅田の背中に大きな声援を送る


(ここで代打を出さないってことはうちがうって出塁するって信じてくれてるってことやんね)

(ここはうっちゃるけん、任しとき!!)


必死に食らいつく梅田、不格好なスイングになっても絶対にアウトにはならないという気迫が全身から伝わってくる。


しかし、梅田が打った打球はボテボテのサードゴロ。

高城が突っ込んできてゲッツーを狙う


「あっ!!」


ここで奇跡が起きる

梅田の打球が先程の回に大島がダイビングキャッチで荒れてしまった場所に飛びイレギュラーバウンドを起こす


高城のグローブに収まるはずだったボールはイレギュラーし高城の肩にあたる。


必死に走りファーストへヘッドスライディングする梅田

高城はボールを追うがファーストへもセカンドへも投げられなかった

この試合はじめてのエラーが記録される。


「前田さん、すみません・・・」

子犬ののような顔で泣きそうになりながら謝る高城


「イレギュラーしたんだし仕方ないよ、あきちゃ。切り替えていこう」


「はい!!」


連続の出塁でお祭り騒ぎ状態のチームKベンチ

菊地あやかが打席に立とうとすると秋元から声がかかる


「きくぢ、すまん。チームの勝利のためだ。代打を出させてくれ」


「・・・・っ。そっか、仕方ない」

悔しそうにベンチに戻る菊地。これが実力主義の世界だ。まだまだ自分の実力が及ばなかっただけ。

そう言い聞かせて応援に精を出す菊池


「すいません、代打お願いします。」

ここで代打に出たのは

山内鈴蘭

島田の姿を見て、敵を取ろうと静かな闘志を燃やしていた選手

その目には揺るぎはなかった



「お願いします。」深々と礼儀正しく頭を下げバッターボックスに入る


(この子は・・・チーム4の子か。どんな選手かわからないしこの体格なら長打もなさそうだ。あっちゃんの球だし一球外してから低めに投げて内野ゴロに討ち取ってゲッツー狙おう)


初球をゆったりと見逃す山内。

通常なら前田の雰囲気にのまれ体が硬直してしまうところだが、山内はそんなことを感じさせない


(ふーん。あっちゃんの球見ても変わらずか。ちょっと不気味だけど低めのストレートで討ち取ろう)


篠田のサインに頷き低めにストレートを投げ込む


踏み込むこともせず低めの球を打ちに行く山内

鋭いスウィングで低めの球を叩くかとおもいきや、山内はまるでゴルフのスウィングのように低めの球をすくい上げる


高々と上がった打球はそのままセンターへ

センターの仲川が落下位置に入ったと思われたが打球が全く落ちてこない

一歩、また一歩と後ろへ下がる仲川


打球はまだ落ちてこない




まだ落ちてこない





ゆっくりゆっくりとベースを回る山内


山内が右腕を高々と掲げると同時にボールはそのままセンターバックスクリーンに静かに吸い込まれていった








「すいません」

危険球で退場処分になった仁藤がベンチにポツリと一言を残しグラウンドから去る

「萌乃ちゃん・・・」

松井咲子と野中美郷が並んでその背中を見つめる



「佐江・・・投げられるよな?」

秋元が宮澤に問う


「うん。萌乃が頑張って投げてくれたおかげで体力も回復したし頭も冷えた。いけるよ!!」


「よし。きくぢもいきなりの交代だけど大丈夫か?」


「当たり前!!準備しすぎなくらいだよ!!備えあれば嬉しいな!!」


「・・・・」


菊地あやかのトンチンカンな発言に固まるチームKの面々だったが秋元の掛け声と共に散り散りになっていく



篠田はデットボールとみなされ一塁へ

ノーアウト満塁のピンチ

内野は前進守備でホームゲッツーを狙う体制


6番の松井珠理奈が打席に入る。


(第一打席で対決した宮澤さんとは別人と思ったほうがいいかな)



ライトでピッチングをする仁藤の背中をみて熱くなっていた頭を冷やし冷静さを取り戻した宮澤の投球は一回のそれとは全くの別物だった

ストレートのスピードもさることながら変化球のキレも増していた


(くぅっ・・・!ノーアウト満塁であっちはピンチのはずなのに!!)


唸りを上げる宮澤のストレートに松井も負けじとスイングする

カーンと甲高い音と共に打球は三遊間へ鋭いライナーで飛んでいく


(抜ける!!)確信をもってスタートを切る倉持と高城


前進守備のため全員が抜けると思ったが、サードの大島が超人的な反射神経で飛びついてキャッチする

そのままの体制でセカンドに球を送る大島

スタートを切り早くも塁間の半分位に達していた倉持は必死に体を切り替えしサードへ戻ろうとする。

が、急激な方向転換に足がついてこずつまずいてしまう

その様子を見た峯岸はセカンドベースを踏みそのままサードのカバーに入っていた梅田に送球する

大きく足を開き伸びて捕球をする梅田

頭から必死にサードへ滑り込む倉持

タイミング的にはアウトでもセーフでもおかしくはなかった


「アウトー!!」


審判の声がグラウンドに響きわたる。

トリプルプレー。早々お目にかかれないプレーをやって退けるチームKの面々にうなだれるチームA


ノーアウト満塁を無得点で終えるチームと

ノーアウト満塁を無失点で終えるチーム。


得点的には勝っているチームAだが勢い的にはチームKの方が上というのは火を見るより明らかだった



       1  2  3  4  5  6  7


チームK  0  0  0  0  0  


チームA  3  0  0  0  0


「萌乃の球はピッチャープレートの端に立って対角線上に投げ込むクロスファイヤーという代物らしい」


「萌乃が端に寄ったら十中八九内角に球がくる」




打席に向かう前、篠田麻里子から伝えられた仁藤の即席の攻略法をブツブツと繰り返しながら打席に向かう高橋みなみ

堅実なプレーに定評のある高橋にとってこの攻略法はわかりやすく、実践しやすいものだった。

愚直に仁藤がピッチャープレートの端に寄るのを待ち、内角にほぼ確実に来る球を叩けばいい


バットを一本の剣のようにくるくるまわし打席に入った高橋はマウンド上の仁藤の一挙手一投足に意識を集中する



(きたッッス!!)



きれいに腕をたたみ腰を回転させ内角の球をはじき返す高橋

打球はお手本のようなセンター返し

一塁に到達した高橋は表情一つ変えず倉持を見つめる


倉持は先ほどの打席でヒットを放っているしチームAのスタメンでは唯一のオープンスタンスのバッターだ

仁藤とは相性が抜群である


レフトにヒットを放つ倉持

ランナーの高橋は二塁でストップ



(まずいな・・・)

連続ヒットを許し迎えるバッターは今日当たってる高城

仁藤もかなり疲弊している

(しかし、ここで萌乃を下げるのは次の回の打順的に得策ではないな・・・なんとか踏ん張ってくれ!!)



首をかしげ何かを考えながら打席に入る高城

(クロスファ・・・なんだっけ?どうやったら打てるんだっけ?)

篠田に言われたことをあまり理解していない高城

首をかしげ球を見送る高城


(もーあきちゃわかんなーい)


もともと配球や相手の心理を読んでバッターボックスに望むタイプのバッターではなく、直感や勘動体視力などでバッティングする高城にとって篠田の送ったアドバイスは全くの逆効果であった

このアドバイスが高城の反応を鈍らせる

やや食い込まれながらも持ち前のバッティングセンスで無理矢理ライトまで運んだ高城



高橋のスタートは悪くなかった

リードの大きさも打球判断もホームへ帰るためのライン取りも全てが完璧だった

サードコーチャーの指示も何一つ間違ってなかった


ただ

高城のスイングがいつもより鈍かったこと

打球が飛んだライトの守備が宮澤だったこと

この二つが、たった二つの要因が



「アウトー!!」



ライトの宮澤からのレーザービームと秋元の完璧なブロック

高橋は果敢にヘッドスライディングするが生還することはできなかった



泥だらけのユニフォームでベンチに戻る高橋


「これは相手を褒めるしかないよ」

ポンと高橋の肩を叩く大家、無言で頷く高橋

「あとは麻里子に任せよう」



「今のはさすがだねー」と秋元に声をかける篠田


「これ以上ホームを踏ませる訳にはいかないからな」


「まぁ、お手柔らかに頼むよ」



コンコンとスパイクの土を落とし構え仁藤を鋭い眼光で見つめる篠田

その瞳を見て背中にどっと汗をかく仁藤

前回の打席のピッチャーライナーが頭をよぎる




「・・・っつ」




仁藤が放ったクロスファイヤーが篠田の胸元をえぐるかと思われたが繊細な仁藤の指先が狂いボールは篠田の頭に向けて飛んでいく

間一髪よけた篠田だったが大きく尻餅をついてしまった。

息を呑む選手たち。

篠田はゆっくりと立ち上がると鋭い眼光を仁藤に向ける。



「おい。謝れよ。謝れって言ってんだろーが!!!」


「・・・・・ません」


「あぁ!?聞こえねえよ」バットを地面に叩きつける篠田


ただならぬ雰囲気を感じ取りベンチを飛び出す高橋それに続いて飛び出すチームAの面々

仁藤を守ろうとマウンドの周りに集合し篠田と仁藤の間に入るチームKの面々

にらみ合う篠田と仁藤

そこに甘ったるい声で


「やめてー私のために争わないでー」


と小嶋がとたとたと走ってくる。一気に緊張感が緩んだところに審判の声が響く


「これ以上試合を中断すると没収試合にするぞ!!」


「それぞれのところに戻りなさい!!」


「それとピッチャーの君!!今回の投球は危険球だ。退場しなさい」


「っくぅ・・・」



下唇を噛み無言でマウンドを降りる


チームKにはピッチャーが二人しかいない



一連の騒動が落ち着いたところで選手の交代が告げられる


「ピッチャー仁藤にかわり宮澤、仁藤にかわりましてライト菊地あやか」






「当てるくらいならあたしにだって・・・」


ぶつぶつとつぶやきながら島田晴香がバッターボックスに入る。

前回の打席では何もすることができなかった島田は今度こそと息巻いて前田に挑む。


確かに今の島田の実力で前田からクリーンヒットを打つことは出来ないだろう。

しかし、島田だってチーム4で四番を売っていた選手である。


(綺麗なヒットは打てないかもしれない)

(でも、必死に食らいつくんだ)

(フォアボールでもデッドボールでも、振り逃げでもいい。なんでもいい塁に出るんだ。)

(チームAの方々だって同じ人間だ転がりさえすれば何か起こるかもしれない)


前田の速球が唸る。

ギィンと鈍い音を立ててボールがファーストファールゾーンへ転がる。


(当たった・・・でもなんて衝撃なんだ・・・しかも速い・・・)


ギィンとまたカットする島田。手のしびれが島田に手応えを感じさせる


(当てること集中すればなんとか当てることはできる・・・ただ・・・)


三球目のストレートもカットするつもりでバットを振る島田

カットしたはずの球は篠田のミットに収まっている。


「カットするつもりで来てるみたいだけど、あっちゃんの本気の球はそんなスイングじゃ、カットすらできないよ」


完全に安牌として見られ手を抜いた球をカットできたと喜んでいたことに悔しさと恥ずかしさがこみ上げてくる島田

しかし、それを口にすることは出来ない。言葉にしたらその時点で自分の今までを否定することになってしまうから。

何も言わず血が滲むほど下唇を噛みしめベンチへ下がる島田。


「はるぅ・・・」


そんな島田を心配そうに見つめる永尾まりや、大場美奈、山内鈴蘭の三人。

島田はいまひとり戦っているのに私たちは・・・と不甲斐なさに自分を責めるもの

島田の敵を取ろうと心を決めるもの

島田が全く歯が立たないことに絶望するもの

三者三様の感情が渦巻いている。


続く山本は先程の打席でヒット性の当たりを打っていたこともあり、前田ー篠田バッテリーに対する恐怖は無かった


「今前田さんの球をまともに打ってるのはうちを除いて優子さんと宮澤さんと秋元さんだけや」

「ここでアピールすれば・・・」


山本の鋭い眼光が前田を捉える。

前田も山本を見つめる・・・が、見つめていたのは山本の目ではなく山本の体、そこにそびえる二つの丘。


(あのこおっぱいおっきいな・・・おっぱいちゃんだ)

(試合が終わったら触らせてもらおうかな・・・まあいいや、今は投げることだけに集中しよう)



前田の体がしなり、鋭利な高速スライダーが山本へ飛んでいく

驚異の集中力で球筋を見極めスイングする山本。

ファールチップする山本


(初球から高速スライダーを投げてくれるってことはいっちょ前の打者として認めてもらったってことやんな?)

(だったらもう一つのウイニングショットも投げさせたいってのは通常の感情やんな)


自信を付けストレート、高速スライダー、カーブ全てをカットする山本


(この子、待ってるな。これ以上粘られても厄介だしお望み通り投げてあげましょうか)

篠田のサインに頷きフォークを投げる前田


フォークを打ちに行く山本だったが、ギリギリでバットを引く

判定はボール


(あらら、見極めるか・・・)

篠田もただでフォークを投げさせることはしなかった。

もし決め球のフォークを打たれたら、バットに当てられでもしたら今後の前田の投球に支障が出る

だったらストライクからボールになるフォークで万に一つもバットに当たる可能性を無くしたつもりだった


(こんな試合展開でもクレバーなのね)


ストレートのサインを出す篠田。すると前田は投球時の位置をマウンドの左端に変えストレートを投げる。


(なッ)


普段のストレートよりはやや角度が付いたストレートを投げ込む前田

元々サイドスローの投手や左ピッチャーなら右バッター、右ピッチャーなら左バッターなどの対戦にしか有効さを発揮しないクロスファイヤーを臆することなく投げてきたことと仁藤の投球のカラクリを見破ってあろうことか真似をして投げてきたこと、真剣勝負だと思っていたこの打席に練習をしてもいない見ただけの球を投げてきたこと。

山本の虚を付くには充分すぎるほどだった


ストレートを空振りしてしまう山本

(前田さん・・・なんて人や)

空振り三振をしてしまったが不思議と笑みがこぼれてしまう山本


(あっちゃん・・・そんなことしたら私たちが萌乃のクロスファイヤーに気づいたことがバレちゃうじゃないか)

(あっちゃんのことだから思いつきだったんだろうけど・・・後で言っとくか)


続く板野も必死に食い下がり前田の球をカットする

少々苛立っていた篠田はさっさと終わらせようと前田にフォークのサインを出す


前田のフォークに空振り三振に倒れる


しかし、フォークをこの回だけで複数球投げてしまったことで前田の体に異変が生じ始めていた



       1  2  3  4  5  6  7


チームK  0  0  0  0  0


チームA  3  0  0  0






松井珠理奈がバッターボックスに入る。

(仁藤さんのストレートにどんな仕掛けがあるかわからないけど、とりあえず指示通りいっぱい投げさせるんだ!!)


バットを短く持ち、カットすることだけに集中する松井珠理奈。

元々打たせて取るタイプのピッチャーである仁藤の球はカットすること自体はそこまで難しくない。


(早く、その不思議なストレートこい!!)



とうとう仁藤のクロスファイヤーが松井珠理奈に襲いかかる

振り抜くも詰まらせてしまいボテボテのゴロがサードへ転がる。

大島が軽快にこれを処理してワンアウト


続く小嶋も同様に篠田の指示に従いカットをし続ける。



「やっぱりか」と呟く篠田


「麻里子様、分かったの?萌乃の投球のカラクリ」


「まぁね。指原ぁ!!」


「はい!なんですか麻里子様!」


「とりあえず次の打席、内角に来たら自分がいつも捉えてるポイントより前で捉えることだけに集中しろ」


「前で・・・ですか?わかりました」



小嶋が倒れたあと、篠田が小嶋と松井珠理奈に声をかける


「じゅりな、にゃろ、二人のおかげでカラクリが解けたよ。ありがとう」


そんな会話をしていると後方からバットの小気味よい音と感性が聞こえる


「麻里子さまー!!指原やりましたよー!!」


と、二塁ベース上で声を上げる指原



続く前田にも

「あっちゃん、もし萌乃が投球動作に入ってるときに二塁ベースが見えたらほぼ確実にボールはあっちゃんの外角に来ると思って」


「わかった」



仁藤萌乃が投げるクロスファイヤーはもともとあまり球威がなかったストレートを角度と相手の錯覚でごまかしたものだった。

ただマウンドの端から対角線上にストレートを思いっきり投げているだけなのである。

それをバッターが今までの経験で内角だからこう振れば当たるというのよりも少し角度がついてるため早く見え差し込まれているという錯覚で討ち取ってきた。

タネがわかればなんのことはないただのストレートなのである。

しかもクロスファイヤーは利き腕の対角線に投げなければ全く意味がない。



「メッキが剥がれてきたね」ニヤリと笑う篠田


続く前田も指示通りにうちレフト前ヒットを放った。

打球の勢いが良すぎたため指原は三塁でストップし2アウトランナー1,3塁

ここで打順は先頭の仲川に帰る。


篠田に言われたことを忠実に従いバットを振る仲川

勢い良く打球が飛ぶが持ち前の判断力で三遊間を締めていた梅田に華麗に裁かれてチェンジとなってしまう。


「今日なんかダメだー」と苦笑いしながらベンチに帰ってくる仲川にそれぞれ声をかけながら守備につくチームAの面々。



チームKの逆転に暗雲が立ち込める





       1  2  3  4  5  6  7


チームK  0  0  0  0


チームA  3  0  0  0






グラウンド整備が終わり試合が再開された


グラウンドに散り散りになる選手たち


投球練習が終わり峯岸みなみがバッターボックスに入る


(さっきの作戦会議の時に必死に食らいついていくぞって言ってたけど、それって尺を稼げってことだよね)


と勝手な解釈をする峯岸みなみ

第一打席でバントをしたためかストレートにも対応している峯岸だったが

内角に食い込む高速スライダーでサードファールフライに打ち取られてしまう。


続いてバッターボックスに入る宮澤

(三失点してしまったのは私のせいだ。ここで打たなきゃ・・・)

(ともちんもあんなに必死になってやってくれてるんだ、打つんだ!!)


追い込まれてからも粘りに粘った宮澤は決めに来た高速スライダーを必死に打ちに行く

ガッっとバットの根元にあたった打球はふらふらとファーストとライトの間に飛んでいく。

ファーストの小嶋とライトの指原、セカンドの高橋が必死に打球を追いかける。

打球としては詰まっていたが宮澤が必死に振り抜いた打球は三人の間にぽとりと落ちる。

初回ぶりのヒットに大きく沸き上がるチームKの面々

「っしゃー!!!」と拳を突き上げ笑う宮澤


先程は篠田の配球にしてやられた秋元。

初回の大量失点も自分の責任だと感じている。

その二つからしっかり頭を切り替えられたかと言えば嘘になる。が、それ以上に打たねばならないと言うキャプテンとしての義務感に襲われていた。

(キャプテンでキャッチャーやってて、わざわざ四番に座ってるんだ。このままじゃあ終われない)


(こんなあたしでもみんなは信頼してくれている。佐江に続くんだ)



「うおぉぉぉ!!!」


大きな声と共に秋元の打球が左中間奥深くに大きく飛んでいく

打球の勢いをみてスタートを切る宮澤

(これなら帰って来れる!)

快足を飛ばして二塁をまわり、三塁へ

宮澤の目はただ一つ、本塁だけを見つめていた。


「佐江ちゃん、戻ってー!!バック、バック!!」


三塁ランナーコーチャーの松井咲子が声を張り上げる。


打球は大きく上がりすぎたためかセンターの仲川が追いついて捕球していた。


「そ・・んな・・・」



宮澤が二塁と三塁上の線上で固まっている間にボールはファーストに送られチェンジ

自分の失点と焦りから宮澤は打球を見誤った


ガックリと肩を落とす宮澤に


「佐江、まだ試合は終わってないよ」


と声をかける大島


「チャンスはまだある」