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いつもなら合わせやすいという理由で黒い靴を買ってしまうのに、こんな一目惚れをしてしまって、気にしていないふりをしていたけどやっぱりあなたの誘いに昂揚していることを実感しながら、ひさしぶりの買い物にレジで緊張しながらカードを出して受け取った紙袋は心地良く重たかった。


あなたは軽く目線を下げると
「来るなと言われれば俺は行かないから」
と念を押したが、それはつまり来るなと言われなければ行くことが前提だという意思表示で、その先回りに私は誤解されたような違和感を覚えて、そういうことじゃない、と強く反論した瞬間、あなたはまったく同じ力を込めた視線をこちらに向けて、そういう台詞は自分を大事に扱えるようになったら言うんですね、と一蹴すると、傘の先の水滴に濡れた手で、私のジャケットのポケットに鍵と住所のメモを押し込んだ。


目を閉じて言い聞かせる。
たしかに私は馬鹿だったし、遅すぎた。
だけどここにたどり着くまでにはどの過程を抜かすこともできなかった。
一からいきなり七には飛べない。


ー『あられもない祈り』島本理生