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キャラクターが、いろんな話でつながっていて、とても面白かったです。

読みやすい作品でした。



日が暮れかけると急に園内の暗闇が濃くなった。

昼間のうちはそんなに意識しなかったアトラクションの明かりが強く浮かび上がって、もともと大きかったものがさらに大きくふくらんだ気がした。

青い夜空に月が浮かんでいて、少し肌寒くなってきたために私はかばんからカーディガンを一枚取り出して羽織った。


マンションの花壇で沈丁花が甘い香りを放っていた。

わざわざ楽しかったことや悲しかったことを考える間もなく涙は流れた。
私はそのまま泣き続けた。

彼が好きだった過去のために泣いた。
彼のことが好きだった自分のために泣いた。

泣いている自分の輪郭まで明るさに溶けていくように思えた、そんな風光る朝に私は大好きだった恋人を見送った。



たとえ私が四十歳になっても六十歳になっても、海を見るたびに、初めて来たときに一緒だった長月くんのことを思い出すんだなって。

たとえ、私たちがお互いを嫌いになって別れたとしても、その気持ちとは関係なく懐かしんだりできるんだね。



窓の外では雨の音が響いている。
まだほんのかすかに残っていた夏の気配を、完全に洗い流す雨の音だ。



「それじゃあ僕がホテルに泊まってる間、君は車の中で寝袋だね」
「それで朝になったら車がなくなってたりしてね」

「うちの父親が無理して買ったばかりの新車だから、やめてください」
「そうしたら加納君がまた違う車に乗って逃げればいいんだよ」

「コンビニの傘立てじゃないんだから」

僕があきれると彼女は笑った。



月が山よりも高く上がっている。
風が冷たくて凛とした空気が山道には立ち込めていた。

浴衣の袖口から腕を伸ばすと、湿っていた肌が乾いていくのを感じる。



遠くの旅館から湯気が立ちのぼっている。
その湯気の先をたどると空の闇が濃くなったことを感じた。

遠くの山々がシルエットだけになり、一枚の影のように夜空に張り付いている。
月だけが明るくなっていく。



しばらく一人でぼうっとしていたけれど、スカートから出た膝のあたりに薄ら寒さを感じて、自分のほうにも半分ほど毛布を引っ張った。

すると今度は加納君の右足が出てしまったので、手を伸ばしてふたたび掛けた。

バランスを崩してしまいそうになって、なんとか体勢を立て直した後、一人でなにをやっているのだろうと思って少し笑った。