また、懐かしいものを見た。
随分昔に捨ててしまったお伽話のような話。それを今更思い出して夢に見るなんて、どれだけあの頃が楽しかったのだろうか。不自由なんてなくて、信頼していた仲間がいたからだろう。
とても、とても楽しかったけれど、脆く儚い事が気にもくわなかった。
はあ、と溜め息を1つ吐いて、立ち上がろうとすると、重たい首輪と手枷足枷が動きを阻む。
今日もまた私は飼い馴らされて、彼に遊ばれるんだ。
絶望とも言えぬ感情で這うように隣のベッドへ移動した。ベッドには彼が眠っており、その整った寝息を確かめて安堵する。
――よかった、まだ眠っていた。
自分のベッドへ戻ると、この不気味な『世界』を見渡した。
存在するのは私と彼だけ。あるものと言えばガラクタ。様々なものが転がっているだけ。
そんな、暗闇の世界。
光のあった世界とは違って、随分薄暗く、唯一の光は電球だけ。昼も夜もなければ、外なんてものもない。そんな、世界。
そんな世界で私と彼は、2人で幸せと名称される生活をしていた。
「みう」
低い声が聞こえ、振り返ると、私を抱き締めてくる、黒い彼。
「クロハ」
そう呟くと、きゅっと腕の力を少し強めた。大きな彼の背丈では、抱き締められた私は埋もれてしまう。
これも、いつもと同じ。
クロハがすっと離れると、私の正面に立って、私の目を見る。
そして彼はニヤニヤと笑って、いつも通り私に問う。
「戻りたいか?」
また私も同じ答えを並べる。
「別に。どっちでも」
彼は満足そうに微笑むと、私をまた抱き締めた。
これがいつもの私。彼と一緒にいる事で満たされる。
これこそが幸せだ。これでいいんだ。
・・・・そんな演技をして、あの世界へ戻りたがって、この地獄のような世界を生きる、裏切り者の私。彼を裏切ったのは最初からだ。
どうせ、抗ったって無駄だろうけど、絶対に、戻りたかった。皆の場所へ。
「どうした」
彼のぶっきらぼうな声で現実へ戻される。
「何でもない」
私もいつものように、少し微笑んでから彼の口に優しくキスをした。
