ヤクルトからポスティング・システムでメジャー挑戦を目指した村上宗隆が、2年契約、総額3400万ドル(約53億7000万円)でシカゴ・ホワイトソックスに入団が決まった。当初はドジャース、マリナーズ、レッドソックスなど強豪球団への移籍を予測する声があったが、村上が選んだのは“メジャー最弱”ともいわれ、チーム再建中の球団だった。
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ア・リーグ中地区のホワイトソックスは、今年60勝102敗と大きく負け越して2年連続最下位だった。昨年は121敗のメジャーワースト記録を作り、2023年も101敗して、3年連続でシーズン100敗を喫している。大谷翔平、山本由伸、佐々木朗希が在籍して2年連続ワールドチャンピオンに輝いたドジャースや、同じシカゴを本拠地とし、今永昇太や鈴木誠也がプレーするカブスに比べて知名度が高いと言えないが、これまでも日本人選手との縁は深い。今年までヤクルトの監督だった高津臣吾氏が現役時代にプレーし、元ロッテ監督の井口資仁氏は正二塁手として05年に球団史上88年ぶりでワールドチャンピオンになった際に大きく貢献した。
本拠地のレート・フィールドで12月22日(日本時間23日)に行われた入団会見で、ホワイトソックスを選んだ理由について、村上はこう語った。
「僕にすごくあっているなと思いましたし、なによりこれからのチームだと思うので。これからのチームの一員になることはすごく好きなので、それが決め手でした」
「負けてきたという情報は知っていますけど、過去のことなので、これからどう勝つかというのは、僕もチームの一員になりますし、僕たちで話し合って前に向かって、勝ちに向かってストーリーを作り上げていければと思います」
これは本心だろう。再建中のチームと共に自身もステップアップする道のりを、村上はすでに経験してきている。
令和初の三冠王を獲得するなど華々しいイメージが強い村上だが、当初からスター選手として注目されていたわけではない。2017年のドラフト会議では同学年の清宮幸太郎(日本ハム)に注目が集まり、7球団が1位指名で競合。清宮のクジを外したヤクルトが「外れ1位」で指名したのが村上だった。当時のヤクルトは17年に最下位となり、村上のルーキーイヤーの18年こそ2位に浮上したが、村上が1軍に定着した19年、20年はいずれも最下位に低迷した。だがこの環境が、村上にとって良かった。


■低迷するチームだから起用され続けた
村上は19年に36本塁打をマークしたが、リーグワーストの184三振を喫し、守備でも計15失策とミスが目立った。最下位に低迷するチーム状況で、首脳陣が目先の勝利よりも「村上を育てよう」と我慢強く起用し続けたからこそ、村上は目を見張る成長曲線を描いて飛躍した。21年に39本塁打でタイトルを獲得し、チームも日本一に躍進。22年には56本塁打、134打点、打率.318で三冠王に輝き、チームもリーグ連覇を果たした。ホワイトソックスでも村上がメジャーの環境に慣れ、ヤクルト時代のように実績を積み重ねていけば、チームは上昇気流に乗り、村上の市場価値も上がっていくはずだ。
米国で取材する通信員はこう期待を込める。
「メジャーでキャリアを形成する上で良い球団を選んだと思いますよ。近年は低迷期が続いていますが、ホワイトソックスには捕手のカイル・ティール、二塁のチェイス・メイドロス、遊撃のコルソン・モンゴメリーなど若手成長株が多い。投手陣も決して悪くはありません。村上は一塁での起用が有力視されますが、結果が出ない時期があっても来季に優勝争いできるチームではないので、我慢強く起用してもらえる。メジャーの投手に適応するためには、1打席でも多く打席に立つことが重要です。本塁打を量産して評価を上げれば、強豪球団がトレードで獲得に乗り出すことが考えられるし、FAとなる2年後に大型契約を勝ち取れるでしょう」
■「実戦復帰後はスイングが変わった」
今回の村上のメジャー挑戦で、強豪球団から長期契約のオファーがあったとは報じられていない。その理由として挙げられたのが、空振りが多いこと、内野守備の能力が低いことだった。ただ、この見方に関してセ・リーグ他球団の首脳陣は村上のある変化を口にしている。
「今年は上半身のコンディション不良で出遅れましたが、実戦復帰後はスイング軌道が以前に比べて少し変化したように感じました。大きく振るイメージがあったのですが、速い球にきっちりコンタクトするようになった。振りが小さくなったのではなく、鋭くなった印象ですね。飛距離は以前と変わらず、打ち損じが明らかに減りました。守備も一塁だったら大丈夫だと思いますよ。送球に少し不安を抱えているようだったけど、フットワークが悪いわけではない。ヤクルトでは主に三塁を守っていましたが、一塁も試合に出続ければ慣れていくでしょう。今の評価を覆せる活躍をメジャーでできると思います」
今年は故障での長期離脱が続き、56試合のみの出場で打率.273、22本塁打、47打点。打撃タイトル獲得はならなかったが、全試合に出場したと換算すると、本塁打は三冠王を獲得した22年の56本塁打と同じペースで量産していたことになる。
■大谷翔平も弱小球団を選んだ
かつて大谷も、日本ハムからポスティング・システムでメジャー挑戦した際、ドジャースやジャイアンツといった強豪球団が移籍先として有力視されていた中で、弱小とされるエンゼルスに入団して驚きの声が上がった。
「メジャーでは前代未聞の二刀流でプレーすることを、全面的にサポートすることを約束したのがエンゼルスでした。強豪球団と大型契約を結ぶことが、必ずしも野球人生のプラスに働くとは限りません。村上が期待されているのは長打力です。1年目に20本塁打、なおかつ打率2割5分以上、出塁率.350をクリアすれば十分に合格点をつけられる。米国の投手への対応だけでなく、寒いシカゴの環境に適応するための時間も必要です。春先は試行錯誤するかもしれませんがシーズンは長いので、焦らずにコンディションを整えて完走して欲しいですね」(スポーツ紙デスク)
村上の選択が正解だったかどうかは、結果で証明するしかない。村上の新たなステージへの挑戦に注目したい。





