-序-



梅雨も終わりの白玉楼、妖夢は一人途方に暮れていた。

白く霧がかる幻想的な朝靄は白玉楼で馴染みのもの。
霧向こうに、うっすらと露濡れた妖怪桜が、小鳥舞うその身を覗かせている。

なんとなく頭のリボンを触ろうとして、二つめの異変に気が付く。
ない。
どころか、二振りの刀すら持たぬではないか。

「ゆ、幽々子様」

いつもの服もどこへやら、確かに寝具に着替えていたから仕方はないが、今の自分が纏っているのは夏用の着流しである。

護るべき主人の名を呼んで、白い霧に撫でられた綺麗な館を見回した。
『白玉楼』
確かに外見は見慣れたものであるのに、庭が違う。
庭師の自分が知る庭がないなどと、それは白玉楼に疑問を持つ第一の枷となり。

「霊気を感じない」

目を閉じて感覚を澄ませど、流れてくるのは生も死もない創りもののような息吹。
骨ではないが生きていない小鳥。
冷たくも温くもない風。
何より、

「幽々子様の妖気が感じられない…」

あれほどまでに強く溢れるような妖気を捕らえる事が出来ぬなど、ありえるものか。
震える足を一歩踏み出すが、知らない土と雑草の感触に違和感を覚え怯んでしまう。
自嘲するついでに震えを弾き飛ばした。
進まぬ事には始まらない。例えばこれが悪夢でも目覚めるまでは現実なのだ。






蝶は私の見ている夢なのかしら
私が蝶の見ている夢なのかしら







-早朝の白玉楼-



「妖夢~?」

いつもと代わらぬ朝、幽々子の暢気な声が白玉楼に響き、そのひとつが昨夜泊まりに来ていた霊夢を起こした。
紫と合うなりこちらへ転送された身である。

「朝ごはん?」
「霊夢おはよう、髪の毛が凄いわ~」
「ここの水が髪に合わなかったのよ、キシキシするしボサボサするし」
「天然の霊水だもの、三途の川だから髪の寿命を流しちゃったかも」
「おええ!!」
「飲むのは大丈夫なのよ、流しちゃうとダメだけど」
「歯ァ磨いたんですけど!?」
「…一回くらいなら大丈夫よ~」
「おぶええ!!!」
「普通の人間なら死ぬけどアンタなら大丈夫よ」
「あら」

己の歯についた水を必死になんとかしようと(具体的にいうと汚いので割愛するが)奮闘中の霊夢の後ろから、不機嫌さ全開で現れたのは、

「パルパル」
「パルパル言うな」

何故か地獄に繋がる竪穴を護る宇治の橋姫、水橋パルスィである。

「なんで私がこんなとこで一夜を明かさなきゃならないのよ妬ましい」

理由なぞどこぞの隙間妖怪のみ知る事ながら、語る事もなく犯人は闇の中。
地獄に帰るには閻魔のところを通らねばならず、どうも閻魔が苦手なパルスィは白玉楼に足止めされざるを得ない訳で…

「紫に待ってろって言われたんじゃない」
「私はここの…なんだか妬ましい空気が肌に合わなくて仕方がないむず痒い、帰れるもんなら帰るけどああ妬ましい!」

確かにパルスィを足止めするに白玉楼は的確なようで的確ではない、むしろ嫌がらせに近い…なるほど紫らしいと悶絶するパルスィを尻目に霊夢は思ったが黙っておいた。
幽々子がパルスィの頭を撫でたところでまた一人招かれた客が顔をのぞかせる。

「元気だな、3Pか?」
「黙れ金髪」
「なんだなんだ朝っぱらから愛の鞭か霊夢!」
「黙れ金髪縮れ毛!」

霊夢の投げた札がナイフとなって金髪縮れ毛の数本を切り裂いたが流石は金髪縮れ毛、全く動じていない。

「素直じゃねえなぁ」
「至って素直よ」

尻を触ろうとする右手の親指を万力で、胸を触ろうとする左手の小指をペンチでギリギリしながら、ふと表情を寝起きに戻して霊夢は言った。

「幽々子、朝ごはんは?」
「痛い痛い痛い霊夢様ごめんなさいもうしませんもうしません!」
「そうだ」
「昨日夜中まで食べてたじゃないの」
「朝食と昼食と間食と夕食と夜食は普通別腹よ」
「妖怪よ」
「霊夢」
「何よ」
「妖夢見なかった?」

霊夢が幽々子に気をとられようやく開放された金髪縮れ毛…魔理沙の死体と思しき死体をパルスィがそっと確認するが、脈はあるようだ。
首を傾げる幽々子に、霊夢も首を傾げて答えた。

「昨日見たわ」


さて、実は登場していないもう一人の招かれし客。
昨日の宴が原因か、これだけの騒音にも関わらず、起きる気配もなく起こす人もなく、気持ちのいい惰眠を貪り続けてるのだった。


「妖夢が見当たらないって」

子供じゃあるまいし、と霊夢のため息を幽々子があわててかき散らす。

「違うのよ違うのよ!この時間はいつも朝稽古を終えて台所に立つ時間なの、あの子規則正しいから乱れるなんてことないの!」
「まあ真面目うんこだしな」
「まあ不真面目うんこと違って日課は欠かしそうにないしね」
「何処にもいないって?」

誰もいない台所の、綺麗に整頓された皿を眺めながらパルスィが尋ねると、幽々子はうっうっと首を振る。

「トイレも庭も自室もみんな探したのよ~…」
「最後にうちらのとこに来た」
「有り得ないと思ったんだけど…」
「有り得なかったと」

今にも泣き出しそうな幽々子、ため息をつく霊夢、食材を物色する魔理沙、調理道具を眺めているパルスィ。

「どうせ食材が足りなくなって買い出しに行ったとか」
「いや豊富だぜほくほく」
「窃盗はやめなさいよ」
「妖夢に怒られちゃう!」
「醤油にみりんに塩に、砂糖に…、特に不足してるものはなさそうね」

戸を開け、中を確認していたパルスィが呟いた。

「それに買い出しにいくにしても…米くらい炊いていきそうなものだわ」
「おや、パルスィも自炊するのか」
「当たり前でしょ」
「私は霊夢という愛妻がいるから作ったことはないんだぜ!」
「お前を朝飯にしてやろう」
「台所血まみれにしないでね」
「その台所をいじった後がないのよ」

相変わらず綺麗に整頓された道具類を見て、パルスィが渋い顔をする。食器と手拭いの渇き具合から言っても、ここ数時間は誰も手をつけていない。

「稽古場は?」
「そういえば…木刀に手をつけた後もなくて、足跡も…」
「自室は?」

そう聞かれ、幽々子はややあってからハッとし、それからみるみると青ざめてゆく。

「お布団が、敷きっぱなしで…」

眉をしかめる霊夢、胡瓜をボリボリ食べていた魔理沙も首を傾げた。几帳面なんだっけ、と霊夢が呟いたのをきっかけに一同は、妖夢の消失の異様性を知るのである。

「よ、妖夢~!」
「落ち着きなさい幽々子、異変と決めつけるのはまだ早いわ」
「え、え」
「犯人は一人しかいない、そいつが犯人じゃなくて初めて異変なのである」
「確かに神隠しなら十八番野郎がいるな」
「なぁんだ紫の仕業ね」
「まだ早いっての、紫が捕まるまで待つべきね」
「朝ごはんはどうすんだ?」
「もちろん作るのよ!」
「霊夢の朝ごはんハアハア」
「…パルスィがね!」

唐突な流れ弾に、パルスィのモンスターが火を吹いた事は言うまでもない。

「…で、ここはなんてユートピアだい?」
「幻想卿よ妬ましい」

不機嫌なパルスィが更に不機嫌になって割烹着を纏い包丁を握る様はなんていうかこう、ほほえましくて食べてしまいたい。
寝癖のついたままの金髪を掻きむしりながら、はて自分の見ているこれは夢か現実かと考えていると、お玉が飛んできて眉間を直撃した。

「遅いのよ起きるのが」
「いやはは、揚句叩き起こされて台所まで引きずられて来た訳ですけど」
「当たり前よ。白玉楼の主は危なっかしいし巫女は魔法使いがうざったいから作れないとか言うし、とんだ白羽の矢だわ妬ましい」
「パルスィの朝ごはんかぁ…私も久しぶりだよ」
「…手伝いなさいよね」
「もちろん」

寝ぼけ眼を細めて笑ってみせると、ふいとそっぽをむくパルスィが死ぬほど愛らしい。
あまり朝からたぎってもしようがないと意気込み放られた魚を掴んで包丁を握る。
隣には鍋を見ながら塩をひとつまみしているパルスィ。
…なんだかいいなあ。夢かな、リアルだなあ…

ほんわり幸せ夢心地の勇義が、現実だと知ってガッツポーズをとるのはもう少し魚臭くなった後の話。


「美味しいわね」
「美味しいわぁ」
「うみゃいうみゃい」
「そうだろそうだろ!さあ食えもっと食え!パルスィの料理は世界一!」

実食。

「あああああああああ!!」

歯にもの着せぬ軍勢のお陰で本日の朝食は実にエクストラなことになった。
ま、パルスィの性格から言ってこうなるわな。

「…食後の運動もしたところで」

パルスィが疲れるまで結界を張り暢気に朝食を平らげ、白湯を一服頂いていた霊夢が、さて本題だとでもいいたげに息をひとつ吐いた。

「あ、その前に一言」
「?」
「パルスィなら嫁に貰ってもいい」
「なんでよ!?」
「やらんよ!?」
「私がいるんだぜ霊夢!」
「お前は嫁になれない」
「そうかっ私は旦那!!」

ぴちゅーん。

「魔理沙も死んだところで次なる会議と行きますかね」
「ふはははは!私の残機はスペランカーバグにより無限に存在するのだ!」

ぴちゅーん!

「話が見えないんだが説明をもらえるかい?」
「魂魄妖夢の消失」
「短っ!」
「なるほど、ということは鍵を見付けなくてはならないね。記憶は有しないが同じ人物と接触して…」
「キョン何人いるんだよ」
「いや、キョンが妖夢でしょうが」
「ではそのキョン夢が長門と」
「キョン夢て」
「長門は誰だよ、重要だぜ」
「とりあえずみくるは幽々子、巨乳で鈍い」
「流石にミルクはでないわよ~」
「下ネタ?」
「主人公的にハルヒが霊夢か」
「マイペースなのは当て嵌まるけど私あそこまで行動力ないのよね、不思議な出来事なんて望まずしてやってくるものだし面倒くさい」
「でもツンデレだろ」
「巫女がツンデレ?」
「ああ、私にはな!」
「その腐った目玉を脳髄ごとえぐり出す」
「スプーン使ったらちゃんと洗いなさいよ」
「あ、霊夢が長門なんじゃないかい」
「確かに」
「人間の監視とかヤダ面倒くさい」
「じゃあ私がキョンな!キョ理沙な!」
「キョンはド変態じゃないわよ」
「ある意味ド変態だろ!長門にセクハラ出来る距離ニイル段階デ!」
「しねえから安らかに死ね!」
「残る古泉が私か…」
「ちょ、勇儀この話し合い全く意味ないわよ!着地点がまずない!」
「ハルヒがパルスィだ」
「はぁ!?」
「だってツンデレだろ」
「ツンデレだな」
「ツンデレね」
「ツンのデレ姫…」
「デレ橋パルスィ…」
「デレ橋パルスィってなんだよ!いや違うから!議題からして違うから!」
「デレ橋ハルヒィ…!?」
「デレ宮パルヒィ!?」
「何合致してるの!?ばかなの!?」
「パルヒィ!パルヒィ!」
「奉るなー!グリーンアイドモンスター!!」
「私だけ配役がなーいーんーだーぜー?」
「アンタは谷口だから」
「よりによって!?」


立派で美しい白玉楼、盛者必衰の響きあり。





「相変わらず愉快ね」

果てしなく意味のないこの議題を、隙間からひそやかに聞いているものがいた。

何を隠そう紫しかおるまいが。
くすくすと楽しむように嘲るように笑い、それでいて精悍とした表情で闇の中を歩み始める。
彼女が左手と右手で繋ぐのは隙間であり空間であり、過去も未来も関係がない。まして幻想卿も表世界も、地球も宇宙も何処のものも制約たらしめる存在は何一つない。

「筈だったんだけどね…」

憂いにも似たため息を受けるように、足元で揺れた金髪がただの暗闇の筈の空間でチリチリと光を放つ。

「ごめんなさいね幽々子…」

紫は幽々子ら集まる白玉楼に繋げた空間の切れ目から一旦左手を離すと、その切れ目を中心に大きく縁を描いた。
腕が滑り、指先が音もなく何事かを切り裂いてゆく。
ようやく円形上に空間を切り取った刹那、ふと霊夢の叫ぶ声が聞こえて目を閉じた。
次いで右手を静かにしならせて新たな空間に裂け目を作る。
その先には誰もいない偽りの白玉楼をさ迷う妖夢の姿がある。



「妖夢…願わくばあなたの名に相応しい、妖しく幻に満ちた夢を」



祈祷めいた言葉を投げかけ、同じように円を描いた。
突如左手に重い振動が伝わり、円を描く腕が危うく止まりかけたが、痛みを堪えて紫は作業を続ける。
霊夢の力か、なんて強い。

「紫しゃま…」

ようやく妖夢の空間を切り取り終え、少し疲れた紫のもと、闇の淵から声が呼び掛けてきて、思わず返事をしそうになった。

「こら橙、寝ている紫様を起こしたら大変だぞ」
「ごめんなさい藍しゃま、紫しゃま苦しそうなお顔してたから…」
「紫様はこれから少し大掛かりな空間の干渉にかかるんだ、大丈夫だよ…いつものことだろう?」
「はい…」
「私達は紫様と巫女のいなくなる幻想卿を異変から守る役目をもらっているからね、大丈夫、しっかりやれば紫様も早く帰ってくる」

藍の優しい声がこだまする。ああ、すっかりお父さんねえ。
それにハイと答えた我が八雲家の愛猫橙が、がんばりますと明るく声を上げて部屋を飛び出して行く音が続いた。

「紫様、どうか御心配なく」

やれやれ橙の前で無理をするから、随分と元気のない声を出すものだ。

「…ご無事で」

私は今、非常に酷な主であるだろう。
これから大仕事をしようというのに自ら使役した式を置き去りにして一人事を成そうとしている。
もちろん私にしか出来ぬ芸当であるからという理由もある、しかし式としてみれば己の親ともいうべき主の側にいれぬほどの不幸は存在しないのではないか。
信頼云々ではない、私は不安を与え、また心配されているのだ。式にも、式の式にも。

やがて藍も橙の後を追ったようで、静かに襖が閉められる音を合図に紫は全ての五感を絶った。

大切なものは大切なものに全て預けて来ました。
代わりに大切なものの大切なものは私が全て預かっています。

「繋げましょう」

ここは尽力して価値あるべき世界ですものね。







そんな訳で、個人的な偏愛丸出しのスペースのはじまりです。

多分SSメインになりそうですね。

東方とか汚い忍者とかモンハンとかバサラとかエルシャダイとか進撃の巨人とか…

時空の歪みも多々ありますが、個人的趣味故、どうぞお許しください。

当方には、BL、GL、NLを同列として扱っております、垣根はございません。






おうどんたべたい。