東京オリンピックが始まると、日本選手の活躍を応援したくなる。開催期間を通じて、何人ものヒーロー、ヒロインが誕生して、スポーツの歴史に新たな1ページが書き加えられるだろう。私たちにとっては無形の資産となる。

 これは歓迎されることだが、五輪開催の厳しい課題がパラリンピックも終わった全日程終了後に残される。国立競技場などの建設費のほか、1年延期による追加費用、感染対策費の拡充などの公的支出増が、巨大な大会収支の赤字をつくる。その赤字への対処は、今後、東京都や政府などの大会関係者が長期計画を立て、税収増加などで穴埋めを検討していくことになるだろう。これは五輪の負の意味の「レガシー(遺産)問題」である。

五輪の経済効果は大外れ

 筆者は、五輪開催は賛成だが、政府や東京都のレガシー問題への対応は不十分だと考えている。「五輪をやって終わり」とは間違っても考えたくない。むしろ、大会収支計画はコロナ禍で大きく狂ったからこそ、負の遺産をそのままにしないように、大会後にその穴埋めの説明責任を果たすべきだと考える。

ロードプライシングが始まり普段より交通量が少なくなった首都高(手前)=2021年7月19日、本社ヘリから
ロードプライシングが始まり普段より交通量が少なくなった首都高(手前)=2021年7月19日、本社ヘリから

 東京都には、2017年4月に発表した五輪のレガシー効果の試算がある。総費用1兆6440億円(第5版)に対して、12兆2397億円のプラスのレガシー効果が見込めるという試算だ。

 選手村の跡地利用・交通インフラ整備による街づくりで2兆2572億円、観光需要拡大など経済活性化・最先端技術活用で9兆1666億円などとなっている。このレガシー効果は、今となっては過大評価と言わざるを得ない。観光需要は回復のめどが立たず、ビジネス拠点の形成も期待できない。

 五輪開催の考え方として、その開催を期に東京が国際観光都市として飛躍する成長ビジョンがあった。今は、そのビジョン自体が成り立たなくなり、成長戦略にもぽっかりと穴が開いた状態だ。

 東京都の新しい成長ビジョンを描き直さなくては、先行きの不透明感は放置されることになる。確かに、コロナ禍が収まらなくては何も描けないという見方もあるだろう。しかし、今のうちから構想を練っておく方がよい。

登庁時に報道陣の取材に応じる小池百合子東京都知事=2021年7月23日、斎川瞳撮影
登庁時に報道陣の取材に応じる小池百合子東京都知事=2021年7月23日、斎川瞳撮影

 すでに17年発表のビジョンは相当に狂っている。例えば、アフターコロナでは賃料の高い東京都心のオフィスを引き払い、東京以外に本社を構えようという動きがある。個人でもテレワークを主体に働き、地方移住を考える人もいる。アフターコロナは東京の成長にとって逆風になる可能性が高いからこそ、早期の準備が求められるのだ。

医療の充実やEV普及を考える

 行うべき対策はさまざま考えられるが、必ずしも五輪というトピックスで枠をはめない方がよい。

 企業の東京離脱によって、オフィス需要の減退が起きることに対して、外資系企業を誘致する優遇策を検討する手はある。政府の対日直接投資の拡大策と連動して、海外企業の誘致に成功すれば、税収が増えて、東京の定住者も増加する。

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 コロナ禍では医療体制の不足も問題になったが、東京都や政府が、医療ツーリズムに乗り出せば、医療従事者の裾野は広がる。長期滞在の外国人が増えれば、インバウンド需要拡大にも効果がある。

国旗などが飾られた東京五輪の選手村=2021年7月25日、小川昌宏撮影
国旗などが飾られた東京五輪の選手村=2021年7月25日、小川昌宏撮影

 都市の魅力を高めるためには、混雑解消による移動の円滑化や、CO2排出削減は都心の空気の清浄化を進めるには有益だ。五輪開催中は、首都高速道路の料金が引き上げられ、混雑解消が図られている。プラス1000円は高すぎると思うが、ロードプライシングで柔軟に価格設定が行われて交通量が減ることには賛成である。

 また、五輪を前に水素バスなど環境配慮の自動車が普及したことは、五輪に伴う先端技術活用の事例であった。今後はこれをもっと大胆に進めて、電気自動車(EV)の普及に東京都が目標を設定し、それを通じて大気汚染を減らす。大気汚染にもいくつか指標を設定して、環境配慮を東京都が推進するのはどうか。

 これらは、居住者の都心回帰を促す効果がある。テレワークなどで東京を離れる人が増えるのに対して、東京に自然が戻ってきて、やはり職住接近で東京に住みたいという人が増えれば、地価下落に歯止めをかける効果もある。コロナ禍で地価下落の傾向が強まったが、中長期的に住民が増える改善策は、そうした地価形成の逆風に対抗する力にもなる。

国の債務と二重写し

 いま日本は、国全体として大きな債務問題を抱えている。東京五輪が残す巨大な赤字を、この先の東京の経済発展でどう解消していくかという対応と、では日本全体は債務問題にどう向き合っていくかという課題は、筆者には二重写しになって見える。

 ともに問題を解決するには、経済発展によって債務負担を将来的に相対的に小さくする以外の選択肢はないように思う。だからこそ、東京都と政府などが五輪後に、大会収支の赤字にどう向き合っていくかを見極めていきたい。