仕事から帰ってくると、座敷わらしがいた。

 せっせと部屋の片づけをしている。いるものと、いらないもの。事業仕分ではないが、せっせと手を動かしている。

「よいしょ、よいしょ」

食器棚を動かそうとしている。残念。この食器棚は備え付けだ。

「何やってんだ、お前」

 座敷わらしの動きが止まる。沈黙。

・・・

・・・

・・・

 視線がぶつかる。

・・・

・・・

・・・

「きゃあああああっ!」

 ちなみに、現在、深夜1時。さすがの俺も慌てた。

「ち、ちょっと待て!真夜中だ。静かにしろ!」

 勘違いしないでほしいが、俺はひとり暮らしだ。もっと言うのなら、俺の部屋は独身寮なので、子供が間違えて入ってきたなどとは考えられないし、ましてや合鍵などないから入り込む余地などまったくと言っていいほどないはずである。

「ごごご、ごめんなさい!ちょっと片づけるつもりが!こんな時間まで!すいません、すぐ消えますから!」

「いや、待て。消えなくていい。その前に教えろ。お前は何者なんだ」

「はい、あの、実はですね…」

 と、座敷わらしが話し出したその瞬間、隣部屋の木俣君が血相を変えて怒鳴りこもうとしていた。

「お~い~すーずーきぃ!!いまなんぢだとおもっとるんぢゃあ!」

 どんどんどんどん!!

 ・・・若干、木俣君の方が近所迷惑の感があるが、そんなことはどうでもよかった。俺―――鈴木敏夫(某スタジオジ○リのプロデューサーと同姓同名なのだ)―――は、慌てて言った。

「すいません~テレビの音量がマックスでして~すぐ止めましたから~ご迷惑かけました~」

 自分で言うのも何なのだが、情けな~い声で応じる俺。なんと言っても木俣君は身長185センチ、体重112キロの元柔道国体選手で、歳は僕より6つも上の大先輩のはずだが、同期入社なのである。・・・察しのいい方はもうお分かりだろが。分からない人のために敢えて教えよう。木俣君は花の留年組なのだ!怖くて本人の前では決して口が裂けても言えないからここでのことは内密に。要するにいろんな意味で怒らせると怖いのだ。

 ―――話を戻そう。

「こっちは明日早番なんだからな!頼むぜ、まったく!」

 鬼の形相っていうのは、きっとああいう顔のことを言うんだろうな。扉の向こうだから見えないけど、声聞きゃわかるよ、うん。それからもう一つ言うと、木俣君、声のトーン落とした方がいいぞ。

「ほんと、すいません。気をつけますから」

 俺が言うと、ドアの開閉音が響く。木俣君は部屋に戻ったらしい。すぐに静かになった。

「た、助かった…」

 心底俺は安どした。そして再び座敷わらしと対峙する。

「話が途中になったな。で、何者だお前」

 見た感じには小学校の低学年くらいか、いやもっと小さいだろうか。着ているものはなぜか着物だし、頭はどこかの時代劇で見た気がする。何だったか。

「あの…僕のこと見て、『子連れ狼』の大五郎だ、って思ってませんか?」 

「おお、そーだ♪そっくりじゃねえか。よし、たった今から俺はお前を大五郎って呼んでやる。喜べ」

「嫌です!断固反対です。そんなことならまだロナウドの方がましですよ!」

 自分で言ったくせに、と俺は心の中でツッコミを入れた。それにしても、サッカーブラジル代表だったロナウドの名前がこいつから出てくるとは正直驚いた。2002年の日韓W杯のロナウドは、確かに大五郎ヘアだったというおぼろげな記憶がる。謎なのは、なぜ10年前のことをこいつが知っているかだ。生まれてなかっただろう、大五郎。

「今、『お前いくつだ』って思ったでしょう。私はこう見えて300年以上この地にいるのです」

「要するに呪縛霊なんだろ?」

「失礼な!守り神と言ってください」

「で、座敷わらしだろ?ロナウド大五郎」

「うっ!まさか組み合わせて呼ばれるとは!」

「お前が言えっていったんじゃねーか」

「言ってません!ロナウドだけで結構です!」

 なんだか話がややこしくなってきた。時間も遅いことだし、また明日にしよう。何かしら言おうとしている大五郎の手足を縛りあげ、口をガムテープでふさぐと、俺はベッドに倒れ込んだ。仕事の疲れがピークに達していたこともあってか、俺は朝まで泥のように眠ったのであった。