それから、半年余り。あっという間の出来事だった。気が付いたらシンジとマサトは、ネオフロンティアレコードからデビューが決まり、多くのライブイベント出演、ツアーが組まれ、認知度が上がっていく。

 テレビ出演も果たし、映画のタイアップも決まった。ただ慌ただしく流れて行った時間が嘘のようである。

 まだ夢の続きではないだろうかと、時々シンジは思っていた。今日は地元凱旋ライブツーデーズの最終だった。

 ノック音。シンジは我に返ってどうぞ、と言った。

「そろそろ時間です。行けますか」

 マネージャーの近藤慎太郎が顔を出す。

「大丈夫です。いつでも行けますよ。マサトは?」

「音響のチェックしてくれてます。彼は細かいところまで気になるみたいで」

 マサトの几帳面な性格なら、ありそうだな、と心の中でシンジは少し笑った。自分にも、他人にも厳しいのだ。だから俺たちはやれてきたんだという思いもある。

 楽屋を出てステージに向かうわずかな間、シンジは今までのことを思い出していた。

 俺はデビューしてからライブ活動以外に俳優の活動もするようになった。そのうち連続ドラマのオファーも来るかもしれないということである。もちろん受けるつもりだ。

シンジは何事もやってみなければわからないと考えていた。自分を見出してくれた近藤には感謝している。それはもちろん、音楽だけでなく、俳優という道があっているのではないかと感じ、見出してくれたことについても。

「そろそろ時間です。お願いします。」

 スタッフの声が響く。

「よし、気合い入れていきましょう!」

円陣を組み、気合いを入れる。

「シンジ、頼んだぜ」

 マサトがシンセサイザーを操作しながら言った。この半年で一番変わったのはマサトかもしれない。

 さえない電気メーカー工場社員から、アーティストへ。「自分を変えたい」と同じ道を歩むことになったが、まず見た目を変えるため、髪を金髪にしていた。

 もちろん見た目だけではない。トラックメーカーとしての才能も開花させていった。今では自分で演奏するだけではなく、他のアーティストに楽曲提供するまでとなった。音楽雑誌にマサトの特集がされ、今一番注目されていると言ってもいいだろう。

開演を知らせるブザー。幕の向こうには多くの観客が控えている。シンジは深く深呼吸する。幕が開くとともに、ドラムとベースの爆音が響く。続いてシンジのギターリフ。

ステージからは観客の顔が驚くほど鮮明に見えた。最前列ほぼ中央にイクミとヒカリの顔を確認する。

飛ばし気味に1曲目、2曲目を歌いきる。1回目のMC。

「みんなー!かえって来たぜ!今日は盛り上がっていこーな!」

 歓声が響く。俺たちも、ファンのみんなも、夢への第一歩をようやく踏み出したばかりである。