①
彼と出逢ったのは、偶然だった。
そもそも出会いとは偶然なのだけれど。まさに『偶然』という言葉がしっくりくる、そんな出会い方をした。
わたしはその日、アルバイトを終えて友達と待ち合わせをし、行きつけのカフェに行くことを日課のようにしていた。
カフェに着くと、友達はまだ来ていなくて、店内はまだいくらか空いていた。
わたしはお決まりのテーブルをチェックする。
入口から入って右側の角の席。いつもそこが私と友達の指定席のようなものだった。
よかった、今日は空いてる。
顔なじみの店員さんが、水をもってやってくる。わたしはカフェオレを注文した。
それからほどのなくして、私の友達―――イクミがやってきた。
『ごめんヒカリ、待ったでしょ?』
『全然。私も今来たところだから』
言い忘れていたが、私の名前は唐沢ヒカリ。相馬イクミとは高校からの同級生だ。
『ヒカリ、聞いてよ~シンジったらひどいんだよ~』
『おお、今度はなんだなんだ?』
思わずわたしはイクミの顔を覗き込む。イクミの彼氏―――シンジとは、ひと月に1度くらい、会う機会がある。イクミのお気に入りのストリートミュージシャンのヴォーカル。
ミュージシャンといってもプロというわけではなく、それとは別にコンビニとガソリンスタンドのアルバイトを掛け持ちしながら音楽活動を続けているのだ。
『こないださー新曲作るって言ってたじゃん?集中したいからってしばらく会わないって言うんだよ』
『会わないって言ったって、電話やメールはできるんでしょ?』
『駄目だよ~私が電話やメールする時間帯シンジはバイトだもん』
なるほど。そういうことだったか。私は一人納得し、息を吐いた。
『あ~ヒカリまた溜息ついた~あたしは真剣に悩んでるのに』
と、イクミはふくれっ面になった。
『仕方ないじゃん。もう永遠に会えなくなるわけじゃあるまいし。大体いつから会えてないのよ』
『今日で4日目』
イクミは相変わらず膨れっ面である。
『たった4日でおおげさだよ』
間髪いれずにわたしは言う。
『おおげさじゃないもん。長くても3日だったもん』
私はため息をついた。イクミが非難したのは言うまでもない。