「初めまして[1] 。弁護士の志摩祐介と言います。Aさんの国選弁護人に選任されました。よろしくお願いします。」

「こちらこそ。すみません。」

「体調はどうですか?」

実践刑事弁護~三平弁護士奮闘記~に書いてあったとおり、健康状態を確認する。

勾留状の別紙を読み上げる。

「こういう事実で、あなたは逮捕されて、今ここにいると。私はそう聞いているわけですが、何かここが違うといったことろはありますか?」

「いや・・ないです。」

「時間とか、場所とか、万引きしたものとか、どれもその通りですか?」

「はい。」

「それでは万引きするにいたった経緯について教えてもらえますか?」

Aさんは、ぼそぼそと話しだした。

公園でお酒を飲んでいたが、お酒が足りなくなって、でもお金がないから万引きしたらしい。以前にも万引きやら何やらで何度も捕まったことがあるようだ。

「いまお金はいくらか持っているんですか?」

「数十円くらいしかないです・・」

「だれか助けてくれる人はいませんか?家族とかは?」

「兄貴くらいしかおらんけど・・迷惑かけっぱなしなんで助けてくれるかどうか・・。」

「とにかく、私のほうから連絡取ってみますよ。」

「電話番号分かります?」

「はい。」

電話番号をメモした後、今後の手続きの流れ等を説明した。

「じゃあ今日はこれで帰ろうと思いますが、あと何か聞いておきたいこととかありますか?」

「とくにないです。」

私は、接見終了を知らせるベル[2] を鳴らし、Aさんに一礼した後、接見室を出た。



[1]  弁護人と会って話をしたりする権利(接見交通権)については刑事訴訟法39条第1項において「身体の拘束を受けている被告人又は被疑者は、弁護人又は弁護人を選任することができる者の依頼により弁護人となろうとする者と立会人なくして接見し、又は書類若しくは物の授受をすることができる。」と規定されている。

ちなみに接見については、「捜査機関は、弁護人から被疑者との接見の申し出があったときは、原則として何時でも接見の機会を与えるべきであり、現に被疑者を取調中であるとか、実況見分、検証等に立ち会わせる必要があるなど捜査の中断による支障が顕著な場合には、弁護人と協議してできる限り速やかな接見のための日時等を指定し、被疑者が防御のため弁護人と打ち合わせることのできるような措置をとるべきである」(最判昭和53年7月10日民集32巻5号820頁)との判例があり、特に初めての接見に関しては「被疑者の逮捕直後に初回の接見の申出を受けた捜査機関は、即時または近接した時点での接見を認めても接見の時間を指定すれば捜査に顕著な支障が生ずるのを避けることが可能な時は、留置施設の管理運営上の支障があるなどの特段の事情のない限り、被疑者の引致後直ちに行うべきものとされている手続きおよびそれに引き続く指紋採取、写真撮影等所要の手続きを終えた後、たとえ比較的短時間であっても、時間を指定した上で即時または近接した時点での接見を認める措置を採るべきである」(最判平成12年6月13日民集54間5号1635頁)等として強くその権利が保護されている。

[2]  接見終了後に被疑者が一人になるという問題(その間に自殺する者もいた。)を解決するため、全国の警察署で接見終了時にはベルを鳴らすという運用が徹底されるようになった。

「先生、前の方終わりましたんでどうぞ。」

一節読み終え、次節にとりかかった頃、ようやく自分の順番が回ってくる。

留置管理の警察官の後ろをついていく。

重く大きなドアを開けたその先には、接見室[1] と取調室[2] が並んであった。

小便が乾いたような、ゲロがこびりついたような独特の異臭が鼻をつく。警察官が接見室のドアを開け、部屋の電気をつける。

「それではA(今回の被疑者)を呼んできますんで、ちょっと待っていてください。」

椅子に座り、鞄からファイルを取り出す。

国選弁護人選任書、国選弁護人候補氏名通知依頼書、勾留状、被疑者国選弁護報告書等がファイルには綴られており、ファイルの背表紙には、被疑者名と窃盗被疑事件との記載がある。

椅子の前にはカウンターがある。その先には、分厚いアクリル板で被疑者のいる留置室との間が仕切られている。座ったときの顔の位置には、円形状に小さな穴が無数に空いている。声を通すためのものだ。

しばらく待っていると、向こう側のドアが開き、警察官に促されるまま、Aが入ってきた。



[1]  警察署で身体拘束されている人に弁護士が接見したり、家族や友人が面会したりするための部屋。テレビドラマでよく出てくる容疑者がガラス越しに家族や弁護士と話しているあの部屋を想像してもらうとよい。

[2]  警察官が被疑者を取り調べるための部屋。テレビドラマでよく出てくる容疑者にカツ丼食わせながら「田舎のお袋さんが泣いてるぞ。」等と警官が発言している場面を想像してもらうとよい。

A警察署に到着。

駐車場は、車でいっぱいである。

警察署の上のほうから、威勢のよいかけ声が聞こえる。

警察署の道場を開放して、こども剣道教室か柔道教室でも開いているのだろう。

どうりで車がいっぱいなわけだ。

なんとか一台分の空きスペースを見つけ、そこに駐車する。

警察署の中に入り、受付にて接見に来た旨を伝える。

所定のフォームに、自分の氏名・住所、被疑者名等を記入する。

受け付けてくれた警察の人に記入した紙を渡し、弁護士であることの証明として、名詞[1] を見せる。

しばらく待っていると留置管理の人が出てくる。

「先生、すみません。今、別の弁護士さんが接見しているので、あそこのソファで待っていてもらえますか。」

「あ、はい。分かりました。」

接見室が一つしかない警察署ではよくあることである。この待ち時間をつぶすために、持ってきた倒産本全書をソファに座って読む・・



[1]  弁護士バッジでもよい。

ピー、ガガガガ。

1枚のFAXが送られてきた。

見ると法テラスからの被疑者国選弁護人受任の打診である。一緒に送られてきた国選弁護人候補氏名通知依頼書には、被害者の名前、生年月日、勾留場所、事件名などが記載されている。勾留状もある。勾留状の別紙をみれば、被疑事実(何をして捕まったのか)が分かるし、被疑者の住居や職業も勾留状に記載されている。スーパーでお酒を万引き、無職、住居不定、歳はけっこういっている・・ホームレスのおっちゃんたちが、公園で酒盛りをしている場面が頭に浮かぶ。勾留場所は・・A警察署[1] か、ちょっと遠いなあ。



[1]
いわゆる代用監獄。警察署での接見(捕まっている人との面会のこと)は、拘置所のような時間制限はないので、弁護人にとっても便利ではある。ただ、接見室が一つしかないようなところも多く、接見渋滞(他の人が接見ないし面会していて接見室が空くまで待っている状態)が起きているときもある。拘置所は接見室が多いので接見渋滞ということはあまり聞かない。

「えー、弁護士さんなんですかー、すごーい。」

「じゃあ、六法全書とか全部覚えてるんですかー。」

何百回聞いたことだろう、この質問。そんなはずないだろ。どんだけ量あると思ってんの。だいたい六法覚えて弁護氏なれるんだったら、パソコンだって弁護士になれるじゃないか。むしろパソコンくんの方が優秀じゃないか。

「違うよー。六法は試験では見ていいから、覚える必要ないんだよ。法律をどう使うかが、試験では問われるの。例えば・・」

毎度毎度の同じパターン。もうほんとそんな話題ふらないでほしい、とも思うが、せっかくの機会に法律にちょっと興味を持つきっかけになればと思い、だいたいの場合、ちょっとおもしろげで簡単な刑法の問題を出してみる。ふつうの人はあまりにも法律の世界に無頓着だ。

ちなみに、実際の本試験で出るのは次のような問題



平成16年・刑法第1問

 甲は,交際していたAから,突然,甲の友人である乙と同居している旨告げられて別れ話を持ち出され,裏切られたと感じて激高し,Aに対して殺意を抱くに至った。そこで,甲は,自宅マンションに帰るAを追尾し,A方玄関内において,Aに襲いかかり,あらかじめ用意していた出刃包丁でAの腹部を1回突き刺した。しかし,甲は,Aの出血を見て驚がくするとともに,大変なことをしてしまったと悔悟して,タオルで止血しながら,携帯電話で119番通報をしようとしたが,つながらなかった。刺されたAの悲鳴を聞いて奥の部屋から玄関の様子をうかがっていた乙は,日ごろからAを疎ましく思っていたため,Aが死んでしまった方がよいと考え,玄関に出てきて,気が動転している甲に対し,119番通報をしていないのに,「俺が119番通報をしてやったから,後のことは任せろ。お前は逃げた方がいい。」と強く申し向けた。甲は,乙の言葉を信じ,乙に対し,「くれぐれも,よろしく頼む。」と言って,その場から逃げた。乙は,Aをその場に放置したまま,外に出て行った。Aは,そのまま放置されれば失血死する状況にあったが,その後しばらくして,隣室に居住するBに発見されて救助されたため,命を取り留めた。
 甲及び乙の罪責を論ぜよ(特別法違反の点は除く。)。





今日も何の成果もなく、合コンは終わった。