ああーっ!疲れた~!!
だいたい添削の終わりが見えて来たかな~
学校の先生って夏休みも何だかんだと忙しいんだよなー
まあ、高校の先生になるって決めたのは俺自身だから、
別に後悔はないけどさ!あはは!
おお、何だ、もう昼か。
駅前に飯でも食いに行くか!
ガラガラっ!
いつものカツ丼フルコースお願いします!
「はいよーっ!あんた、カツ丼とお水ねー!」
「おいよっ!頼まれました!がはは!!」
はあー旨かった!ごちそうさまでしたー!
じゃあ、スタバでコーヒー飲んでるお洒落な人を眺めながら、
壁にもたれて缶コーヒーでも飲むか!
俺さ、ああいう洒落た所って緊張しちゃってダメなんだよな。
注文とか難しいじゃん?
まるで少女アニメの主人公が唱える呪文みたいでさ!
フルチン・ブラ・ペチィ~ノ!!とか言うんだっけ?
ペチっ!ペチっ!って。ははは!
あれっ?あいつ、幸男じゃないか?
よう!お兄さん元気?
ここで何やってんの?
「先生!先生こそどうしてここに?」
ああ、俺?そこで飯食ってたんだよ。
ううん?何か元気ないみたいだけど、何かあったのか?
「・・・いや、別に。」
なーに隠してんだよ!話聞いてやるから言ってみろよ?
「うーん・・・実は・・・」
なるほどなー、恋の悩みか・・・
お前さ、クラスの中では真ん中ぐらいかな?
トップのグループでもないし、
かと言って、消極的で目立たないわけでもない。
わりかし顔もいいし、磨けば光る十円玉ってとこか。あはは!
ありがとな。
人にはなかなか言えない事を正直に話してくれて嬉しかったよ。
だから俺、幸男の恋を応援したいんだけど、
お前の夏休み、俺に預けてみないか?
「預けるって・・・?」
いや、そんな大そうな事ではないんだ。
俺と幸男の二人で普段しない遊びをしようかと思ってさ。
じゃあ明日の朝八時に駅で待ち合わせな!
ああ、自転車乗って来てくれな!ちょっと遠くに行くからさ!
おーい!おはようさん!!
おっ!そうだ!
出発前に写真一枚撮ろうか?
はい!チーズ!パシャ!
よし!行くかー!
「先生、行くって何処へ?」
江の島だよ。
「ええーっ?横浜から江の島行くの?」
細かい事気にすんな!行くぞ!!
「先生!ちょっと待って!早いって!ぜいぜい!」
車や電車とかで行くのと違って、
自分の力で進んで行くのって大変だろ?
道ってさ、ネットの地図なんかで見てると簡単に見えるけど、
実際は自分で行って確かめてみないと分かんないんだよな。
でも、たまにはこんなのもいいだろう?ははは!
「あっ!江の島だ!」
ふー!お疲れさん!無事に着いて良かったな!
はいよ!未成年のシャンパンをどうぞ!
「あはは!ジンジャーエールじゃん!」
「色が似てるからグラスに入れたら間違えるかもね!」
自分の足でここまで来れたのって、正直すごいと思わないか?
普通やらないだろ?こんな事。しかもママチャリで。
だけどさ、最初はあんなに遠くまで??なんて思ってても、
いざ、こうして到着しちまえば、何て事ないだろ?
幸男、今日からお前はな、
横浜から江の島までの距離は何でもない距離になったんだ。
これが経験から生まれる自信というものだ。
これから、こういった一見無駄に見える事をとおして、
磨けば光る百円玉にしてやるからな。
覚悟しておけよ!!ははは!!
じゃあ次は三日後、朝六時にいつもの駅で待ち合わせな!
山登りに行くから。
ああ、細かい持ち物はあとで電話するからさ。
おっ!そうだ!幸男は髪が長いから散髪行って、
俺みたいに短くしてスタイリングジェルで前髪上げてこい!
短い方が日焼けも似合うし、汗を拭くのも楽だからな!ははは!
おっ!いいじゃん~!短髪似合うと思ってたんだ!
いい!いい!いいよ!
じゃあ!行こうか!神奈川県の低山に出発ー!ははは!
ガサっ、ガサっ。
「先生、ここって熊出ないよね?」
まあ、出ないんじゃないか?
神奈川県って言っても横須賀だからな。
大丈夫だろ?
「もうじき山頂じゃない?嬉しいなー!」
おおっおおおっと!!あぶねえな!!
残念だけど、この先は蜂の巣があるから進めないな。
「ええー?じゃあ頂上まで行けないって事?」
そうだ。
俺はここに連れて来たお前を守らなければならない。
低山とはいえ、この狭い道で蜂の大群の襲撃を受けたら、
滑落して怪我どころじゃなくなる可能性もある。
だから今日の登山はここで終わりにする。
もしな、幸男、お前が好きな子と一緒に来ていたらどうする?
当然、今の俺と同じでなければならない。
良く聞く言葉だと思うけど、
「俺が責任取るから!」
こういうのあるだろう?
あれ、間違ってるんだぞ。
責任を取るっていうのはな、
何かが起きてから対処する事ではなく、
何も起こらないように過ごせるようにする事なんだよ。
分かるか?
何かの一瞬だけ、口先で責任とってもしょうがないんだよ。
幸男がどうしてここまで大きくなれたのか?
それは幸男のお父さんお母さんが、
口先だけではない、心込めた責任を担ってくれているからなんだ。
この先、憧れのあの子とデートする事になったら、
口先だけでなく、お前の全部で守ってやるんだぞ。
だけど、そんなのは見せなくていい、出さなくていい、
いつでも胸の中では守ってやれよ。
「はい!!」
よし!今日はここが俺たちの山頂だ!
写真撮ろうか?
「鷹取山 登頂記念」
パシャ。
久しぶりの渋谷!懐かしいなー!人がいーっぱい!!
じゃっ、この帽子被って、エプロンして。
「えっ?な、何するの?」
声出しだよ。
普段、ほとんど大声出す事って無いだろ?
だから、ここでどこかの店の店員さんを装って、
度胸を付ける練習をするんだよ!ははは!
じゃあ、黒いスラックス履いた店長の俺からいくぞ!
「いらっしゃいませ!!!」
「いらっしゃいませ!!!」
「いらっしゃいませ!!!!」
幸男、行け!
「いらっしゃいませ!!!!」
「いらっしゃいませ!!!!」
いいね~!しっかり声出てるじゃん!
じゃあ後、三十分やってみようか!
どうだ?大声出すのって気持ちいいだろ?
「うん!!すっごい気持ちいい!!」
「今まで眠ってた自分を自分で取り戻した感じがするよ!!」
だろ?
人は皆、出来る事はたくさんあるのに、
世間体や他人の目を気にして、
本当の自分の能力を出せていないんだ。
だから自分の力を知らないままで自信を持てず、
自己肯定感を自分で低めに設定してしまうんだ。
いいか?
物事の価値ってのはな、
すべて自分で決めていくもんなんだ。
今はこれが流行ってるから、
誰かがこう言ったから、
みんながそうしてるから。
そうじゃない。
自分で感じた答えを自分で出して行くんだ。
それがお前なんだ。
(ここら辺で歌でも聴いてみますか?)
波乗りジョニー - 桑田佳祐
ここは俺が17歳の時に人生で初めて来たバーなんだ。
石川町駅、中華街側の出口を出て、
門をくぐってすぐのウインドジャマー。
初めて口にした若草色のカクテル、グラスホッパー。
これが甘くて美味しくてさ。
いやー、この夏、幸男といろんな事をしたな~
久しぶりに俺自身も青春を楽しめて嬉しかったな!
せっかくの夏休みなのに、俺に付き合ってくれてありがとうな!
「こっちこそ、ありがとう!」
「俺、嬉しかったんだ。」
「無意識で諦めかけてた自分に気付けてさ」
幸男、あのな、
恋でも人生でも、大切なのは自分に自信を持つ事なんだ。
俺はそれに気付いて欲しかったんだよ。
誰しも、どうしたら自信を持てるようになるのか?と、口にする。
そして自分の中にではなく、
他人の意見の中から自分に似合う答えを探そうとするんだ。
だけど、それはな、誰かの言葉に自分を誤魔化してるに過ぎないんだ。
それって、自分なのか?その自分でいいのか?
いいわけないんだよ。
誰かの考えに安心して、結局、自分で考えてないじゃん。
そうだろ?
そこをちゃんと自分で考えていけるようになると、
自分に光が宿るんだ。
その光を生み出すのが経験なんだ。
今回、お前にいろんな事を経験してもらったのは、
その目には見えない光を自分で探して欲しかったからなんだ。
俺は、お前の恋を応援すると言ったけど、
何ひとつ恋に関して教えてはいない。
自分に対して自信の無かったお前に恋愛テクニックを伝えても、
それは何の意味も無いんだ。
まず、少し前の自分に負けない自分になれるように、
それを思ってこの夏を過ごして来たんだ。
さまざまな経験がお前を強くした。
ここが恋のスタートラインだ。
今のお前は夏の日差しを浴びて逞しくなったいい顔してるぞ!!
これ見てみろ、最初に自転車で江の島行った時の写真だ。
今の幸男と全然顔付が違うだろ?
これがお前の自信なんだよ。うん。
たくさん光を見付けられて良かったな!!
そろそろ最後のドリンク頼もうか?
俺はマティーニで。
じゃあ、幸男はシンデレラにしようか。
シンデレラはノンアルコールのカクテルだから、
酒が飲めない人や未成年にピッタリだ。
マティーニはカクテルの王様と言われているんだ。
そしてカクテル言葉が、
「知的な愛」
素敵だろ?
知的な愛でシンデレラをちゃんと守ってやれよ!
「うん!!」
後日・・・
「先生!俺、付き合ってって伝えて来たよ!」
そうか?で、どうだった?
「もじもじしながら、今回はごめんね・・・って」
やったじゃん!!
お前の勝ちだぞ!
「えっ?ふられたのに?」
お前さ、ふられたのに全然辛そうじゃないじゃん?
すっきりした顔してるな?
それって、好きな彼女に対して力負けしてないって事だぞ。
そのお前の自信はしっかり彼女に伝わってるから。
彼女はな、この夏で魅力がアップしたお前に戸惑ってるんだよ。
クラスの序列の中で真ん中あたりのお前と付き合うと、
他の子たちに何か言われないかな?恥ずかしくないかな?
たぶんそんな事を気にしてるんだろう。
逞しくなったお前は次第に序列の上位へと進んで行く。
そして、クラスの中でお前の価値が認められると、
人目を気にして交際を断るしかなかった彼女も、
自分の偽りの気持ちに気付いて、お前が気になり始める。
そりゃー彼女も戸惑うよな?
ひと夏でここまでカッコよくなるんだもんな!
だから大丈夫だ!何も心配するな!
さっき言ってたよな?
「今回はごめんね」
ってさ。
じゃあ!時期を見て次回を作ればいいって事だ!
当然お前は、この恋の波に乗るよな?
「当たり前です!!!ははは!!」
おしっ!!いい顔してるな!!
知的な愛でシンデレラをエスコートしてやれよ!