王位戦 挑決リーグ戦は、紅組・白組とも一発で決まりました。
 
羽生さんと佐々木大地五段が、リーグ残留を決めたのは さすがというしかありません。
 
 
「負ければ奨励会退会」という 厳しい奨励会を描いた『将棋の子』です。
 
(プロローグ)
 
心の片隅に貼りついてしまったシールのように、剝がそうとしてもなかなか剥がすことのできない一枚の写真がある。
 
・・・ ダイレクトに胸を衝く、衝撃的な写真だった。
 
それを見た瞬間に私は確かに何かが、たとえば鋭利な硝子の破片が胸に突き刺さったような痛みを覚えた。
 
一人のセーター姿の青年ががっくりと首を落として座りこんでいる。
 
場所は東京将棋会館4階の廊下の片隅である。 ・・・・
 
<帯>     彼らの戦いは なぜこんなにも せつなく胸に迫ってくるのだろう
            ベストセラー『聖の青春』著者が放つ感動のドラマ!!
                    夢と挫折の奨励会物語

(エピローグより)
 
奨励会の修業は、一般社会に出た瞬間に限りなく無に近くなる。 ・・・・
 
悩み、戸惑い、何度も何度も価値観の転換を迫られ、諦め、挫折し、また立ち上がっていく。
 
奨励会を戦う者の誰もが、おそらくはその覚悟を胸に秘めている。
 
彼らは社会人を目指しているのではなく、棋士を、そのはるか先にある名人を目指しているからだ。
 
それに挫折した者にも、今立ち向かっている者にも心から拍手を送りたい。
 
勇気を持って壁に挑む若者たちがいるからこそ、聳え立つ山は気高く美しいのだ。 (裏帯)

 
 
 
”夢と挫折の奨励会物語”は、中座さんの”伝説の写真”から 幕を開けます。
 
ここに登場する奨励会を退会していった人たちは、特に熾烈を極めた”羽生世代に追い越された者たち”です。
 
メインは、成田英二(五十嵐豊一門下)さん。 S52年組高田尚平さんと同期です。
 
S57年組先崎さんと同期の米谷和典さんは司法書士になります。
 
同じS57年組の秋山太郎さんは、「平成22年度前期奨励会三段リーグ編入試験」を受験しました。
 
江越克将(森信雄門下)さんは、2000年1月 第1回世界将棋選手権にブラジル代表として出場し 優勝します。
 
成田さんの弟分の西森照幸さんは、札幌で食品管理工場に就職しました。
 
将棋ライターの加藤昌彦(小林健二門下)さんは、『聖の青春』にも登場します。
 
観戦記者の池辺龍大さんも退会場面で登場です。
 
連盟職員の関口勝男さん(S36年花村元司門下)のはなしでは、花村さんの編入試験逸話も挿入されます。

 

 

大崎善生さんが連盟に就職した2・3日目の話として升田幸三先生も登場です。
 
S52年組の成田さんは、S55年組にも抜かれ、羽生世代にも追い越され、”過当競争”の嵐に打ちのめされた代表といえるでしょう。
 
結びの 「奨励会が、競争と厳しさを教えるだけのところではない・・・・ きっと、勇気や優しさを教えてくれる場所なのだろうと。」 にすくわれるものがあります。
 
 
 
<目次>  
プロローグ
第1章 北へ
第2章 沈黙の海
第3章 夢への遡上
第4章 吹きあれる風
第5章 月光
第6章 再会の日
第7章 放浪
第8章
第9章 勇気の駒
エピローグ
 
 
           著者: 大崎善生
           発行: 講談社
           2001/5/23 初版