いまどき、会社を解雇されたり、雇止めされたりとかがあって、投資なんかして儲けられないか、それなら家にいてできるし、などと思案している人が、少数でも、きっといると思う。老婆心ながら、ご注意申し上げます。
岡安証券(大阪)から電話がかかってきたのは5月連休の3,4日前である。オーストラリア・ドルが日本で連休している間に安くなるから、売りで投資してください、と言ってきた。カギ足という岡安独自のチャートを使っての予測だという。だが、カギ足ならどこの証券会社でもやっている。連休明けにまた電話がかかってきた。今度は、彗星の動きでそれと分かるから、売りで投資して大丈夫です、と、妙なことを言う。私は口車に乗らなかった。
ところが、後でわかったのだが、私の友人が、オーストラリア・ドルを、売りではなく、買っていたのである。時も五月連休前に。そして、3か月少しして、決済した。70万円儲けたんだそうだ(元手は100万円)。彼女はチャートを研究して一番安くなった所で買いに入ったのだと言っていた。彼女はよかった。しかし、私が岡安証券の言う通りしてたら、大損したところだ。
だいぶ前だが、豊(ゆたか)商事から電話が来た時には、トルコの通貨を買ってくれ、と言ってきた。理由は、利子が良いからだという。ところが、それからしばらく経つと、トルコ・リラは下がり始め、暴落と言ってよいほど、下がった。当時43円が今13円ぐらいだろう。
この二つの証券会社で共通しているのは、最初から200万円投資してくれと誘うのである。言われるとおりしていたら、私はどれだけ損したか分からない。しかし、200万円がだめなら、100万円でもいい、50万円でもいいということになってくる。どこの証券会社でも似たようなものなのではないか。
今、多くの人がお金に困っているこの時に、フジテレビでとんでもない放送をやっていた。フジテレビ「ザ・ノンフィクション」(日曜午後2時)。9月13日放送分。主人公は地方からぽっと出の青年で、ろくな教養も特技も知性もない。それが今すぐにでも高給取りになりたい一心で、なにがなんでも会社社長に面会しようと、ビル一階のインターホンのボタンを押す。誰も応対に出ない。ある異業種交流会を訪ね、一人の金持ちに会う。彼は自分のマンションに青年を住まわせ、FX(外国為替売買)というものがあると教える。青年は元手2万円から初めて、最後には700万円まで利益を膨らませた。そうして故郷に帰り、母親に会い、お金が要り用ならいくらでも融通つけるよと言う。なんとよくできた話だ。少しでもFXのことを知っている人ならば、こんな話が実際に起こったと信じる人はいない。
ただ、この「ザ・ノンフィクション」という番組では時々、独特な人生をおくる人が紹介され、感心することがある、そういう番組である。一例が、ある群馬県の年配のご婦人。大衆食堂の主なのだが、昼飯に何種類もの総菜を並べ、500円で食べ放題、という経営をしている。人助けとしてそうするのだという。その訳は、50歳くらいの時、バイクで日本中を回った。九州のある所で、宿泊先が見つからず、途方に暮れた。そのとき、情けをかけられて、あるうちに泊めてもらうことができた。その時のことが忘れられずに、こうして人様のために、500円食べ放題の店を経営しているのだという。この人のことは、その後、NHKの番組「人生レシピ」(金曜夜)でも取り上げられた。内容はほぼ同じだった。むしろ「ザ・ノンフィクション」のほうが、放送時間も長いし、よくできていた。
しかし、2万円を700万円にした青年の話は、でっち上げだと私は言う。どこかの証券会社が企画を持ち込んだのだろう。そして、フジテレビが協力したのだろう。皆さん、こんなものに騙されてはいけません。
フジテレビの番組制作者に言いたい。一体この青年は、何月何日、どこの国の通貨を買って、いつそれを反対売買したのですか、それを開示できますか、と。
佐高信の『現代を読む』 (岩波現代文庫)には、どの証券会社も顧客をカモだと思っている、とある。それを肝に銘じてください。
