パリオリンピックが開幕してその序盤、日本選手が柔道、スケボー、体操などで金メダルを獲得して大いに盛り上がっています。それは僕ももちろん嬉しいのですが、マスコミの報道の姿勢には大きな不満があります。報道があまりに日本選手に偏っているのです。僕がオリンピックを楽しみにしているのは、世界最高のパーフォーマンスをまとめて見る事ができるからなので、日本選手が決勝に残れなくても、陸上の男子100メートルは見てみたいし、日本クルーが出場しなくてもボート競技のエイトは見てみたいのです。僕が取っている新聞は日経で、比較的インテリ層が読者に多いのではないかと考えられますが、その報道はほとんど日本選手のことばかりです。オリンピックの一つのハイライトと考えられる水泳の男子100メートル自由形については日本選手が出場しないため、全く報道されません。男子400メートル個人メドレーでの松下選手の銀メダルは快挙ですが、僕は同時に金メダルを取ったフランスのレオン・マルシャンの素晴らしさについてももっと知りたいのです。しかしネットで他の新聞の記事を読んでみても似たり寄ったりです。

僕はオリンピックを1956年のメルボルン・オリンピックから見ていますので、かなりキャリアが長いと自負していますが、どうもそうした傾向が次第にひどくなっているような気がします。1956年当時はオリンピックの種目に柔道やバレーボールはありませんでしたので、オリンピックで活躍できる日本選手は非常に限られていました。実は僕にとってメルボルン・オリンピックで最も印象的だったのは、水球でのソ連（当時）選手とハンガリー選手の乱闘でした。実はこの年の10月にハンガリーで反ソ・民主化のデモがあり、そこにソ連軍が介入しました。ハンガリー動乱です。何とその1ヶ月後のオリンピックで、ソ連とハンガリーの水球の試合があったのです。試合中に殴り合いが起こり、双方の選手が流血する騒ぎとなりました。新聞に載った流血した選手たちの写真は今でも鮮明に覚えています。オリンピックは平和の祭典と言いますが、世界情勢抜きに語っても意味がないのだという事を、子供ながら強烈に自覚した出来事でした。

いささか話が逸れてしまいましたが、もはや個人の努力でオリンピックに勝てるという時代は終わってしまいました。国や企業によるバックアップが必要ですし、あらゆる種類のデータ分析によって初めて勝利に近づく事ができるというのが常識になっています。映画「炎のランナー」の時代とは違うのです。奇しくもこの映画はちょうど100年前の1924年のパリ・オリンピックを舞台にしています。最近、オリンピックでの金メダル獲得数は、その国のGDPと旧共産圏の国かどうかという２つの関数によって予測できるという記事がネットにありました。その意味では日本人がオリンピックの金メダルにやたらと固執するのは、自分の国の国力を再確認したいという内なる願望の表れであり、マスコミはそれに乗っているのだという事ができるのかもしれません。テレビでも盛んな日本すごいよ番組と同根なのでしょう。それが不健全であるとは言いませんが、オリンピック本来の姿から外れているのではないかと考えたくなります。

これからまだまだパリ・オリンピックは続きます。僕はネットのTVerで、日本選手の出場しないマイナー競技を観戦して、新しい面白さを発見しようかと考えています。それがへそ曲がりの僕には一番合っているような気がするのです。

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