中学生の頃、家庭科の調理実習で料理をはじめてして、その楽しさに目覚めた僕。

しばらくは料理に熱中したことを思い出す。

レシピのバリエーションなんて知れている。

今みたいにネットで検索することもできない。

 

でも楽しくて、よく料理を作った。

料理をしながら、食べる家族のことを考えた。

その空気を想像して、その雰囲気に胸躍らせて。

 

僕の作った料理を母親は必ず「おいしい」と言って食べてくれた。

今にして思えば、中学男子の覚えたての料理だ。

そんなに美味しかったわけではないだろう。

でも、母親はいつも「おいしい」と笑顔で残さず食べてくれた。

 

僕は大人になり、少し皮肉屋になり、それでも料理だけは悪く言わない人間に育った。

あの料理をしている時の楽しい時間、想像を巡らせる素晴らしい時間、それを僕が

「まずい」と言ってしまうことで全てダメにしてしまう。

そんなことはできない。

僕が料理を作る側なら、傷つくし、悲しい気持ちになるから。

 

だから僕は料理を食べたら必ず言うのだ。

 

「おいしかったよ、ごちそうさま」

 

魔法の言葉は人を幸せにする言葉。

人が人を想う言葉が、もっと世の中にあふれたらいいのになと思う。