●欠史八代は誰だったのか（27）

前回は、第30代敏達天皇の和風諡号の解読をしました。

「聖徳太子は本当に、いなかったのか？」がテーマなのに、どうして敏達天皇の話になったんでしょうか？

やっぱり、全体の中の、どの部分に、今、自分がいるのか、常に確かめないといけませんね。今、何をやっているのか？　目標は何なのか？　もう1度確認したいと思います。

えーと、本ブログのテーマは、「聖徳太子がいた」ことを証明しようとしています。

「聖徳太子はいなかった」説は、『日本書紀』によって、虚構の聖徳太子が製造されたとしています。

だから、『日本書紀』以前に完成していた『古事記』に、聖徳太子信仰が存在していたことを指摘すれば、聖徳太子虚構説は崩壊することになります。論理的ですね。

私は、『古事記』の欠史八代の天皇の中に、聖徳太子を発見しました（もちろん、8年後の成立の『日本書紀』にも、当然に欠史八代はあります）。

欠史八代の8天皇とは、あと少しで天皇になれたかもしれなかった残念な皇子たちに、○○天皇の名前を追贈することによって、「鎮魂しよう、お慰め申し上げよう、できることなら祟りは止めてください」という不純な動機から、真実の歴史の中に、欠史八代を挿入したというものでした。

実は、欠史八代の筆頭の第2代綏靖天皇が、聖徳太子だったのです。

綏靖天皇の和風諡号は、『日本書紀』では、「神渟名川耳尊（かむぬなかはみみのみこと）」です。

この諡（おくりな）に、聖徳太子であることの証明が含まれているはずです。無意味な名前を付けることはないので、意味があるはずです。

「耳」というのが疑わしいですね。聖徳太子の名は、「上宮之厩戸豊聡耳命（かみつみやのうまやどのとよとみみのみこと）」で、「耳」が共通しています。

そうであるならば、「耳」以外の、「神渟名川（かむぬなかは）」にも、聖徳太子であることのヒントが含まれていないかどうか検討する必要があります。

そこで、「ぬな（渟名、渟中、沼、沼名）」を、名前の中に持つ3人の天皇を比較する必要が生じました。だから、敏達天皇の和風諡号の解読に到ったのです。

ここまで、いいでしょうか。

敏達天皇の、「ぬな（渟中、沼名）」は、｢瓊（ぬ）な｣＝｢瓊（に）な｣＝｢丹（に）な｣で、「丹の」という、「赤い、丹塗りの、朱色の」といった意味であることが分かりました。

さて、最終目標は、聖徳太子のダミーかもしれない綏靖（すいぜい）天皇の、「神渟名川耳尊」の「渟名（ぬな）」であるのです。

この意味を解明するために、第40代天武天皇の、「天渟中原瀛真人（あめのぬなはらおきのまひと）」の「渟中（ぬな）」を解読できれば、最終的な目標に近ずけるのではないか、という目的でやっているのです。

つまり、超難解な問題を説く準備のために、やや難解な問題を解こうとしているのです。

以上で、全体における現時点のポジションがハッキリしました。

それでは、天武天皇の諡（おくりな）の解読を行ってみましょう。「天渟中原瀛真人（あめのぬなはらおきのまひと）」です。

これも、仏教関係かもしれません。このことは、頭の片隅に入れて置きましょう。

「天渟中原瀛真人（あめのぬなはらおきのまひと）」に、てにをは、を適当に挿入してみると、「天の、渟中（ぬな）の、原の瀛（おき）の真人（まひと）」です。

「渟中（ぬな）」は、「赤い」ですから、「天の赤い原の瀛（おき）の真人（まひと）」です。だめですね、意味が分かりません。

これは手ごわそうですね。刃が立ちません。全然、分かりません。解読には長期戦になるかもしれないです……でも、実は、もう解読完了しているのです。本音を言うと、どうやったら最も簡単に伝えられるかを考えているところです。

長期戦の内容をクドクド説明してもいいのですが、これはブログなので、ブログで、そんなクドいものは読みたくないだろうと思います。だから、結論から説明しましょう。

天武天皇は、天智天皇の弟だったことを思い出してください。

実は、天武天皇の和風諡号は、天智天皇の和風諡号とセットで、やっと解読ができるようになっていたのです。つまり、2つの和風諡号が、連立方程式だったのです。

表を見てください。

ついでに、解読が完了した、敏達天皇と皇極・斉明天皇も載せておきました。敏達天皇と皇極・斉明天皇の和風諡号には、非常に具体的な宗教的な行動が示されていました。

天智天皇と天武天皇も、やはり、具体的な行動、それも宗教的な意味を持つ行動かもしれません。

私は、この2人の天皇の和風諡号を解読するのに、おそらく1年ぐらいかかっていると思います。枕元に、諡号一覧表を置いて、毎日、眺めていても分かりませんでした。

でも、不思議なことに、何百日も継続して考え続けていると、あるとき不意に分かるときが来るのです。

昨日まで分からなかったものが、次の日、試しに再度トライしてみたところ、簡単に解けたという経験が何回もあります。昨日と今日で、差はないはずなのに結果が違ってくるのが不思議です。

で、結論を言いましょう。この兄弟の天皇の和風諡号は、兄弟で共同して完成した、ある宗教的行動を示していたのでした。

歴史では、天武天皇は、天智天皇の跡継ぎを殺しました（大友皇子）。そんなことを諡号に書けません。

「皇太子を殺して天皇になった天皇」とか、「死後に、跡継ぎを弟に殺された天皇」とかいう内容の諡号を贈ることが不可能なのは分かりますね。

だから、兄弟が仲良く共同して完成した内容を諡(おくりな)にして、きれい事にしたということなのです。日本人は、きれい事が好きです。

それでは、「兄弟の天皇が、仲良く協同で行った宗教的行為とは何か？」を、以下に説明します。

手元に、網干善教（あぼしよしのり）『謎の大寺飛鳥川原寺』（日本放送出版協会）という本があります。

川原(かわら)寺は、通説では、斉明天皇の川原宮を、斉明天皇の死後、寺に改めたものとされています。

作られたのは、斉明天皇の亡くなった661年から、天智天皇が亡くなる671年の間に、天智天皇が着工して、それから、壬申の乱の672年以後に、天武天皇が完成させただろうという話です。

斉明天皇の宮だったものを、天皇の冥福を祈って寺にするというのは、ありそうな話です。

寺が完成するのに、だいたい21年かかるという学説がありますので、死後すぐに建築を初めても、661プラス21で、完成するのが、682年(天武12年)です。

『日本書紀』には、672年(天武2年)に、「書生を集めて、初めて一切経を川原寺に写したまふ」とあるので、672年には、写経ができるほどには、部分的に完成していたと思われます。

後世になって、川原寺は1191年に焼失しました。今の弘福寺は、焼けた後に建てられた寺です。

また、昭和49年に、川原寺の近くの裏山から、他に例のない大量の塼仏（せんぶつ）や、塑像（そぞう）の断片が発掘されました。これは、焼失後に、燃えたり破損した仏像の類を一括して、穴を掘って処理したらしいのです。

「塼仏（せんぶつ）」とは、陶器で作ったタイルのような仏像のことです。「塑像（そぞう）」というのは、粘土で作られ焼いていない仏像です。

「塼（せん）」を漢和辞典でひくと、「かわら」と載っています。

「かはら（瓦は、旧仮名遣いでは、かはら）」を古語辞典で引くと、【瓦】《塼の意味の梵語から》（1）丸瓦・平瓦・鬼瓦・敷瓦などの総称。（2）《転じて》価値のないもの。とあります。

敷瓦（しきがわら）というのは、今でいうタイルでしょうが、これも「かわら」の範疇（はんちゅう）に入っています。つまり、真っ平らな陶器も、「瓦（かはら）」と言っていたわけです。

それでは、塼仏（せんぶつ）の画像を見ていただきましょう（画像は、『謎の大寺飛鳥川原寺』より引用した）。

出土した塼仏の大きさは大半が、縦約22.5cm、横約17.5cm、厚さ約2.5cmで、三尊像です。中央が仏で、左右が菩薩像です。

塼仏の作り方は、メス型に粘土を押し込み、形を整え、それを剥がして焼くというシンプルな方法だと思います。

網干善教さんは、この塼仏が、仏堂の壁面を、おおっていたと推定して、パネルとして復元してみました。次の画像を見てください。

こんな感じの壁面だったのでしょう。

とにかく、大量の塼仏が発掘されて、この量の多さは他に例がないことから、川原寺で特殊な使われ方をしたことは間違いありません。

おそらく、壁面が塼仏であった仏殿があったのでしょう。

このブログの読者は、もう気がついているでしょうが、古語辞典で、「かはら」を引くと、「瓦（かわら）」と「川原（かはら）」の2つが並んでいます。

だから、川原寺でなくて、瓦寺だったことが考えられるのです。

大量の塼仏が見つかったことは、過去に例がないわけですから、壬申の乱の前後の人たちが、壁を一面に塼仏で内装した仏殿を見て、「瓦寺」と言ったことは想像に難くありません。

それが、どうして「川原寺」という表記になったのかは、想像するしかありませんが、それらしいことを言えば、壬申の乱で、大友皇子の大津朝廷が、「瓦解」したからか、それとも、「瓦」に、「価値がない」という意味があるからかもしれません。

今まで、「塼仏（せんぶつ）が瓦（かはら）なので、川原寺（かはらでら）だ」と言った人はいません。それは、そんな落語みたいな話を大学教授が言ったら可笑しいと考えたからでしょう。

しかし、なぜ、「川原」なのか考えてみる必要があります。川原寺の脇に、飛鳥川が流れていますが、飛鳥川は、川幅が10メートルもない程の川であって、だいたい、飛鳥には川原（かわら）なんぞはありません。

万が一、川原があったとしましょう。でも、川原に、寺は建てません。もし水が氾濫して寺が浸水したら大変です。だから、川原（かはら）ではなく、瓦（かはら）なのです。これ以外に考えられません。論理的でしょう。

すると、斉明天皇の川原宮（かわらのみや）を、寺に改めたという話は何なのかということになります。

寺の仏殿の壁の塼仏（せんぶつ）を理由に、川原＝瓦になったのなら、寺以前にあったはずの川原宮とは何だったのでしょう。

確かに、『日本書紀』を見ると、斉明元年(655年)に、「この冬に、飛鳥板蓋宮に災けり（ひつけり）、飛鳥川原宮に遷り（うつり）おはします」と書いてありますし、

斉明2年(656年)に、「この歳、飛鳥の岡本に、更に宮地を定む」とあって、後飛鳥岡本宮と言う、と書いてあります。

すると、板蓋宮が焼けたので、以前から存在した離宮の川原宮に移って、後飛鳥岡本宮が新築されるまで一時的に使用したと考えられます。斉明天皇が生きていた時から、「川原」宮だったわけです。

私の主張が正しければ、この、「川原宮」は、川の流れる川原（かわら）ではないでしょう。川原（かわら）に宮は作りません。なぜなら、増水で流されてしまうからです（さっき使ったロジックを再度、使いました）。

そして、「瓦」が語源でもないのです。そんなことが可能でしょうか？

私は、飛鳥の土地で、増水しても流されることがなく、見た目が川原（かわら）の場所を1つだけ知っています。画像を見てください。

酒船石（さかふねいし）遺跡の、舟形水槽と亀形水槽の周囲が、川原になっています。これが、川原宮だったのでしょう。この近くに建物があったはずです。この離宮を、川原宮と言ったと想像しています。

以上、本日は、川原宮と川原寺の「川原」は共通なものではなくて、別の語源・由緒であって、偶然に混同された結果、訳が分からなくなったという推定の話になってしまいました。

次回は、この推定を補強する理論を述べます。それが、天智天皇と天武天皇の和風諡号の連立方程式の解となります。

乞うご期待。

聖徳太子はいなかった、という真っ赤なウソ 第37回

聖徳太子はいなかった、という真っ赤なウソ　第37回