●聖徳太子はいなかった？（5）

「文献」と「銘文」という、聖徳太子関係史料

聖徳太子について書かれた文字史料は多いのですが、明治時代以降、多くの学者が、史料の信用性に疑いがあると表明してきました。そして、平成の時代になり、大山誠一さんに至っては、ほとんど全てに疑いがある。逆に言えば、聖徳太子の存在を証明する史料は存在しないと言い切っています。

私が作った、大山誠一さんの「聖徳太子はいなかった」説と、石渡信一郎さんの「聖徳太子はいなかった」説の比較一覧表には、「文献」と「銘文」というカテゴリーで、聖徳太子関係史料を分類しました。

「文献」と「銘文」とに、私が勝手に分けたのですが、どう違うかというと、

　（1）「文献」は、紙に書かれた文章
　（2）「銘文」は、紙以外の、工芸品に書かれた文章

です。

（1）の「文献」、紙に書かれた文章、ですが、冠位十二階、十七条の憲法は、『日本書紀』に書かれていました。

そして、『天皇記』『国記』も内容は不明ですが、『日本書紀』に、聖徳太子と蘇我馬子が作ったと書いてあります。

そして、聖徳太子の伝記の、『上宮記』や『上宮聖徳法王帝説』は、もちろん紙に書かれていたものです。

それに、聖徳太子が書いたといわれている『三経義疏』も巻物なので紙に書かれています。『三経義疏』は、聖徳太子が自ら書いた仏教の経典の解説書だということで伝わっていたのです。

大山誠一さんは、これらを、全て信頼できないので、聖徳太子の存在証明にはならないとしました。

（2）の「銘文」、これは、紙以外の工芸品に書かれた文章、です。

まず、仏像が背中に背負っている光背というものがあります。光背というのは、簡単に言うと、オーラですね。光りを、銅で作ってあります。ここに文章が彫られていて、仏像の由来が説明されているのですが、聖徳太子の記事が書かれています。法隆寺の「釈迦三尊像」「薬師像」、飛鳥寺の「釈迦像」です。

それから、飛鳥寺と法起寺の塔露盤銘（とうろばんめい）ですが、塔露盤銘というのは、塔の最上階の屋根の上に上げられた銅製の重しのようなもので、「露盤（ろばん）」といいます。つまり、塔の屋根の上の露盤に彫られている銘文です。日本では、ここに、よく文章が彫られているのです。飛鳥寺と法起寺の塔露盤銘は、現物は残っていないのですが、文章は伝えられていました。

それから、「天寿国繍帳（てんじゅこくしゅうちょう）」というのは美術品です。絹地に刺繍で、絵と文章が表現されていました。残念ながら、ほとんど虫に食われてしまって、わずかに断片が中宮寺に残されていました。でも、文章は伝えられていました。

そして、「伊予国湯岡碑文」というのは、聖徳太子が、伊予（いよ、愛媛県）の温泉に旅行に行ったときに作った漢詩が石碑に彫られていたのを、現物はありませんが、文章が伝えられていたのです。

このように、（1）の「文献」は、紙に書かれた文章。（2）の「銘文」は、紙以外に書かれた文章、ということです。私が独断で分類してみました。

大山誠一さんに判断によると、これらの文章は、古くは聖徳太子の存在証明であったものであるが、すべて疑わしいので、聖徳太子の存在証明には、ならない。すべて、720年の『日本書紀』以降に捏造されたもので、聖徳太子が亡くなったのは622年ですから、100年も後のもので、証拠価値はないとしたのです。

以上のように、今日は、文章に残された聖徳太子関係史料を、「文献」と「銘文」とに、二分して、紙に書かれたもの、紙以外に書かれたもの、というように整理してみました。

個々の内容に踏み込むことはしませんでした。とても、ブログでは説明しきれないのです。専門の学者でも最終的な白黒は決定できません。水掛け論になってしまいます。泥沼に踏み込むことになるので、やめておきましょう。そこを、大山誠一さんは、きっちり判断を下したのでした。

私が、近日に開始する、聖徳太子の存在証明では、本日紹介した史料は一切必要がありません。これらの真偽は関係ないのです。非常にシンプルな方法で証明します。乞うご期待。

本日はこれで終わりますが、でも、2つに分類したことで、なんとなく理解ができたような気がするのが不思議ですね。

明日は、2004年の谷沢永一さんの『聖徳太子はいなかった』についてコメントします。

聖徳太子はいなかった、という真っ赤なウソ 第6回

聖徳太子はいなかった、という真っ赤なウソ　第6回