あの後俺らは途中で走ってきたタクシーを捕まえて2人でニノの家へ向かった。
俺から話すことも、
ニノから話すこともなく。
ただただふたりで、
車の心地よい揺れに包まれていた。
外を眺めるニノの横顔を見ながら、
…相葉くんとは恋人なんでしょ?
…なんで来てくれたの?
…俺としょおくんを見て、どう思った?
…ニノは俺の何がわからないの?
溢れ出てくる質問たち。
綺麗すぎるニノの横顔を見ていられなくて、
ぎゅっと目を閉じ俯いた。
今やっと二人でいれてるこの空間を、
壊したくない。
ニノが俺を選んで会いに来てくれた。
この時間を、壊したくないよ。
…例え、相葉さんが恋人なんだとしても。
今のこの時間は…、
俺だけのものでしょ?
だよね?…ニノ。
「…潤くん」
「えっ…?」
急に名前を呼ばれ、ぱっとニノの方を見る。
「…そんなに手に力入れたら、血ィでますよ」
膝の上でぐっと必要以上に強く握っていた手に、ニノのハンバーグみたいな手が伸びてきて。
そっと触れた。
「…っ」
驚いてぴくっと体が震えてしまったこと、
きっと俺の手に触れてるニノにはバレてる。
ちらりと横を見ると案の定、口角が上がっていた。
「…寒いんですか?」
体が震えた理由を分かっている癖に。
「…そんな、こと」
「そう?」
くふ、と笑うと手は離れ、
また窓の外に向き直った。
ずるいよ、もう。
ドキドキと煩い心臓がニノにバレない様に、
俺も窓の外に目をやった。
ただただ、ニノが触れた手の甲だけが無性に熱を持っていた。
「適当に座ってください」
「うん…」
ここまでは連れてきたものの…。
ソファにいそいそと座る潤くんをキッチンからちらりと見る。
さて、この後どうする?
「……潤くん、水でいいですか?」
「うん、ありがとう」
こちらを見て、少し微笑む潤くんは余程気を張っているのか微笑んでいるのにどこか落ち着かない表情。
ふぅ。
とりあえず一息ついてから水を潤くんの元へ。
「…はい、どうぞ」
「ありがとう…」
受け取るときに触れた手に、また潤くんの体がぴくっと跳ね上がった。
「……」
こういう天然な行動がいちばん困る。
…なんなんですか、その反応。
思わずじっと潤くんを見てしまうと、心配そうにこちらを見ている潤くん。
バレてるに決まっているのに、きっと内心、
バレてないかな?バレたかな?
と焦っているのだろう。
それがたった一瞬の俺への視線で分かり、くふっと笑ってしまった。
ほんとにわかりやすい。
…愛しいなぁ、この人は。
こんな仕草なんてされたら、話なんてもうどうでもよくなる。
今すぐに胸の中に潤くんを…
なんて思ってしまう。
そんなことを思いながらあわあわと落ち着かない潤くんを見つめた。
「…また、寒いんですか?」
「…っ」
慌てて顔を伏せようとする潤くんの顎を掴み、無理やり俺の方を向かせる。
こんな意地悪ばかりするから、
きっと"しょおくん"の方がよくなってしまうのだろうか。
分かってるけど、どうにもやめられない。
困惑した子犬のような目で俺を見る。
「ち…がうから」
「ふぅん?」
いいながら手を顎から頬へ。
「……っ」
また震える潤くんの身体。
段々俺の潤くんを見つめる目が熱っぽくなっていくのが自分でも分かる。
「じゃあなんで俺が触る度に震えるんです…」
今度は徐々に頬から耳へ。
「…っ、それは…」
「……それは?」
問いかけた時俺の手が潤くんの耳に触れた。
「…ニっ、ノ…っ!」
今日いちばんの身体の震えを、俺の手を掴むことで堪えようとする。
ぐっと俺の手を掴みながら、真っ赤な顔で見つめてくる潤くん。
馬鹿ですね。逆効果なのに。
「…耳、弱いですよね」
俺の手のままに身体を震わせる可愛い小悪魔を見ながら、どうしても思ってしまう。
この耳に、"しょおくん"も触れたのだろうか。
こんなふうに身体を震わせていたのだろうか。
ふと頭をよぎった考えをすぐに打ち消した。
…嫉妬で、おかしくなりそうだったから。
「ニノ…」
「はい?」
潤くんの呼ぶ声が俺を現実へ引き戻したとき、目の前の光景にはっとした。
「え、どうし…」
「ねえ…ニノはどうして、
そんな目で俺の事見るの?」
気づけばその瞳には、涙が滲んでいて。
今にもこぼれ落ちてしまいそうだった。
「潤く…」
慌てる俺を他所に言葉を遮って話し続ける。
「そんな目されたら、期待しちゃうんだよ…?」
「き…」
「知ってるよ?」
期待?と、俺が聞き終えるよりも先に潤くんが口を開いた。
「相葉さんと、付き合ってるんでしょ?」
その衝撃の言葉と共に、潤くんの頬に涙が一筋零れた。
俺の手を掴みながら、今度は涙で震えているこの人をただ見つめることしか出来ない。
「潤く、」
「俺の事…欲しいって、あれは嘘?」
震える声で、でも真っ直ぐに尋ねるその健気さに。
ぎゅっと俺の手をにぎりしめる儚さに。
俺の心臓がどくどくと音を立てる。
今すぐにでも、俺のものにして安心させたいのを必死に堪えた。
「電話で、ゆってくれたじゃん…っ!」
「潤くん…とりあえず話…」
言いかけた言葉はそこで途切れる。
「俺だけっ…、俺だけ…がっ」
「……」
ぎゅうっと掴む潤くんの手が一際強くなり、絞り出すように言葉が漏れた。
「どんどん、ニノのこと好きになる…っ」
「……」
「なんで、俺ばっかり…っ!」
ポロポロと綺麗な涙が俺の手にも落ちてきた。
え?
いまいち思考が追いつかない中、潤くんの泣き顔がゆっくり上を向く。
困惑している俺を潤くんの濡れた瞳が真っ直ぐに捉えた。
「…すき、だよ。ニ、ノっ…。
すき…っ」
涙が溢れるびしょびしょの顔で、そう訴え続ける潤くん。
聞き間違えじゃない。
聞き間違えるわけが無い。
好き…?ってゆった?この人。
その言葉も仕草も、必死で抑えていた俺の理性を吹き飛ばすにはもう十分過ぎた。
「潤くんごめん」
「ニ…、っんん」
気がつけば後頭部に手をやり、引き寄せた潤くんの唇に俺のを押しあてていた。
目を丸くしているこの人には分からないだろう。
このひとことがどれほど聞きたかったか。
この好きのひとことが…。
どれほどこの人の口から聞きたかったか。
俺の動きに応えるかのように、
ゆっくりと潤くんの瞼が閉じた。
