春節が終わった横浜中華街は、なんとなくホッとした空気が流れていた。

街全体が「いや〜、今年もにぎやかだったね!」とでも言いたげに、少しだけ気を抜いている感じがする。

もちろん、観光客はまだまだ多いし、赤い提灯も健在。でも、あの爆竹バンバンのテンションマックス状態ではない。

私は媽祖廟へ向かった。中華街に来ると、なんとなく寄りたくなる。

媽祖様は航海の神様らしいけど、私の人生もなかなか荒波だから、まあ似たようなもんだろう。

ということで、「人生の大海原を安全に渡れますように」と、毎回勝手にお願いしている。

媽祖廟の門をくぐると、ふわっと線香の香り。

朱色の柱に囲まれた境内には、真剣な顔で参拝している人たちがちらほら。

私も「よし、私も真面目に祈ろう」と思い、手を合わせ、目を閉じた。

その瞬間、ふんわりとしたあたたかい感覚で体が包まれていく。

「ん?今、なんかいた?」

気のせいかと思ったけど、目を閉じたままじっとしていると、頭の中に白い龍が浮かんできた。

そして、そのままぐるっと私の周りを囲うようにして、ゆっくりと漂い始めた。

「あれ、これって幻覚?いや、スピリチュアル案件?」

とか思っているうちに、その白い龍が突然、ズバッとこう言ってきた。

「やりたいことをやりなさい」

……え、シンプル!

 私が「やりたいことって、たとえば?」と聞こうとしたら、龍はすかさずもうひと言。

「そして、人のサポートをしなさい」

うん。

……うん??

いやいや、突然すぎない!?

私は思わず目を開けたけど、もちろん周りには普通の参拝客しかいない。龍の姿もどこにもない。

でも、なんかこう、言われたことがずっしりと心に残っていた。

やりたいことをやる。そして、人のサポートをする。

それってシンプルだけど、案外むずかしい。でも、龍に言われたとなると、なんか従わないといけない気がする。不思議な説得力がある。

「うーん、どうしようかな」と考えながら媽祖廟を出ると、なんとなく甘いものが食べたくなった。

こんなときはトウファ(豆腐花)である。あったかいシロップに浮かぶふるふるの豆腐。

これがまた絶妙に優しくて、「まぁまぁ、そんなに気負わなくてもいいんじゃない?」と、食べながら勝手に龍の声を代弁し始める私。

人生は荒波だし、時々びっくりすることもある。でも、そのたびに「やりたいことをやるべし」「人のサポートをするべし」と龍が言ってくれたら、まあそれも悪くないのかもしれない。

考えてみれば、誰かを助けたり、やりたいことをやったりすることで、自分もどこかで誰かに助けられているのかもしれない。

実際占いをしててクライアント様から色々な気づきをもらうことがある。

結局、そうやって世の中はぐるぐる回っているのだろう。

龍の言葉が特別なメッセージなのか、それとも単なる思い込みなのかはわからない。

でも、まあ、どっちにしても楽しくやればいいか。

トウファの甘さがじんわりと体に染みて、なんだかいい感じに力が抜けた。
春節後の中華街は、なんとなくのんびりしていて、それがすごくちょうどよかった。