1 倫理

 

 「弁護士倫理」とか「法曹倫理」というものがあります。

 

 弁護士は利益相反の場面に遭遇することも多く,「自らを厳しく律する強い倫理観が求められる」と言われたり,「弁護士は高い職業倫理を有している」などとも言われます。

 

 しかし,一般企業の役員や従業員であっても利益相反の場面に出くわすことは少なくありませんし,倫理に反した行動をしたことにより,社会的な批判にさらされる場合もあります。したがって,弁護士だけが特別だということはありません。

 

 また,弁護士は高い職業倫理を有していると言われながら,不祥事が度々報道されています。そこで,弁護士倫理について,もう一度考えてみたいと思います。

 

2 「倫理くらいは分かっている」

 

 「弁護士倫理」と言われていますが,「倫理」というと,どんな人でも,「自分は倫理くらい分かっており,倫理に反する行動はしていない」と思っているのではないでしょうか。自分が倫理に外れた人間であるとは誰も思っていません。

 

 そして,自分が持っている「倫理観」というものさしを当てれば,全ての問題が倫理に合っているか反しているかを判断できると思っています。「倫理」というものは,時間をとって勉強すべきものとか,人から教えられるものとは考えないものです。

 

 法科大学院で弁護士倫理を教える弁護士の中にも,「ある事例を与えて,瞬時に答えが出せるかどうかが大事だ」と言う人もあります。もっぱら自らの感覚をたよりにしているようです。

 

 しかし,「弁護士倫理」の範囲は相当に広くなっており,最近は,かなりテクニカルなものも含まれるようになっています(本人特定事項の確認やその記録の保存など)。そうすると,ルールをしっかりと学んで理解することが必要であり,感覚だけで判断できるものではなくなっています。今日においては「倫理」というような曖昧な位置づけは変更した方がよいと思われます。

 

3 コンプライアンス

 

 私は,「倫理」ではなく,コンプライアンスとして位置づけるのが相応しいと思っています。企業が事業を継続していくために,コンプライアンスは欠かせません。コンプライアンス違反があれば,その企業の未来は危ういものとなります。弁護士にも法律事務所の経営を継続していく責任があります。その為に必要なのがコンプライアンス経営です。

 

 コンプライアンスと位置づければ,「勉強しなくてもすべて分かっている」ということにはなりませんし,コンプライアンス遵守のための体制構築や事務所のガバナンスという視点が加わってきます。

 

 日弁連の機関誌である「自由と正義」には懲戒事例が掲載されていますが,コンプライアンス経営という視点があれば,防げたと思われるものが少なくありません。

 

 弁護士が守るべきルールは何であるか。ルールの中で見落とされる可能性の高いものは何か(準備書面の表現や,事務員が行う業務など)。コンプライアンスを維持するために必要な体制や仕組みはどうあるべきか。このような視点が加わることにより,自分の業務や事務所の体制を見直すきっかけとなります

 

 弁護士には,自分の家族はもちろん,従業員やその家族の生活を守っていく責任があります。コンプライアンス違反という経営リスクを軽減していくことが必要です。そのためにも「弁護士倫理」という位置づけはやめるべきだと思います。