1 理屈で動かす

 多くの人は,理屈で人を動かそうとします。弁護士も然りです。

 裁判官から和解案が示され,これを受け入れるべきだと依頼者を説得しようとすることがあります。和解案を受け入れた場合と拒否した場合の功罪を並べて,「これが,あなたにとって得ですよ。」と説明するのですが,納得してもらえないことが少なくありません。

 

 「まだ話を十分聞いてもらっていない。私の気持ちを理解してもらっていない」ということから,「理屈は分かるけれど,感情的に受け入れられません」となるのです。

 

2 カーネギーのアプローチ

 デール・カーネギーの「人を動かす」は,日本で500万部突破のベストセラーであり,ロングセラーでもあります。

 

同氏は,この本の中で,

 人を動かす3原則

 人に好かれる6原則

 人を説得する12原則

 人を変える9原則

を示しています。

 

3 人を動かす3原則

 

(1) 盗人にも五分の理を認める

 どんなに恐ろしい犯罪者でも,自分を正当化する理由があります。ましてや,何かミスをした部下にも当然に言い分があり,そういう感情を踏まえた行動が必要となります。

 

 アメリカのデパート王ジョン・ワナメーカー氏は,「30年前に,私は人を叱りつけるのは愚の骨頂だと悟った。自分のことさえ,自分で思うようにはならない。天が万人に平等な知能を与えなかったことに腹をたてても仕方ない」と言っています。

 

(2) 重要感を持たせる

 本書には,「人を動かす秘訣は,この世に,ただ一つしかない。それは,自ら動きたくなる気持を起こさせること,これ以外に秘訣はない。」と書かれています。

 

 アメリカの鉄鋼王アンドリュー・カーネギーが自社の社長に迎え入れたのがチャールズ・シュアップですが,同氏は次のように言っています。

 

 私には,人の熱意を呼び起こす能力がある。これが私にとっては何物にも代えがたい宝だと思う。他人の長所を伸ばすには,ほめること,励ますことが何よりの方法だ。上司から叱られることほど,向上心を害するものはない。私は決して人を非難しない。人を動かすには激励が必要だと信じている。だから,人を誉めることは大好きだが,けなすことは大嫌いだ。気に入ったことがあれば,心から賛成し,惜しみなく賛辞を与える。

 

(3) 人の立場に身を置く

 自分の要求を相手に飲ませようとして,相手に対し,大きな声で,強い口調で言ったりしますが,効果はありません。また,手紙を書く場合でも,自分の都合や,自慢話で終わってしまうことも多くあります。

 

 しかし,相手は,私の都合や私の自慢には何の関心もありません。私たちは相手の立場に身を置いて,考えなければなりません。

 

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