1 野口農園のレンコン

 レンコンは普通1本1000円程度のものです。そんなレンコンが5000円の値段で販売され,銀座,赤坂,ニューヨーク,パリなどの高級料理店で食材として使われています。9人の従業員で1億円を売り上げているそうです。

 そんな野口農園を経営する野口憲一さん(昭和56年生まれ)が書いた「1本5000円のレンコンがバカ売れする理由」を紹介します。

 

2 生産性の向上モデルとの決別 

 日本の農業が目指してきたのは,生産面積を拡大し,効率化・合理化によって生産コスト低下を図ることにより利益を確保することでした。分かりやすく言えば,安いものを大量生産するモデルです。

 

 しかし,大量生産,大量消費はすべての産業において時代遅れとなってきています。野口さんは,ある人から「野口君,中国へ行ってレンコン1本1万円で売ってきなさい」と言われたことをきっかけとして,「レンコンを5000円で売ってみよう」と考えたそうです。

 

3 エルメスのバッグとユニクロのバッグの価格が1000倍違う理由

 エルメスの高級バッグは500万円ですが,ユニクロのバッグは高いものでも4000円程度で、その差は1000倍以上あります。使用価値として見た場合,多少の違いはあるかもしれませんが,使い勝手が1000倍も違うことはありません。

 

 エルメスのバッグには,使用価値以外に,「ハイセンス」,「成功者」,「上流階級」などという「記号」が張り付いており,多くの人はこの「記号」に価値を見いだしているのです。野口さんは,野口農園のレンコンに記号を付けることを考えます。

 

4 松・竹・梅

 野口さんは,「大正15年創業の老舗農家」という伝統を前面に出します。そして,贈答用として1本5000円のレンコンを売ることを考え,高級化粧箱を用意し(松),これ以外に一般の箱に入れた4キロ5000円のレンコンと2キロ3500円を用意しました(竹)。そして,これ以外の等級の下がるレンコンを「梅」と位置づけました。

 

 野口さんは,アジア最大級の食品展示商談会である「国際食品・飲料展 FOODEX JAPAN」や,「YEBISUマルシェ」,「国際農産物・展示商談会アグリフードEXPO東京」,「ファーマーズ&キッズフェスタ」に出展していきましたが,その結果はあまり芳しいものではありませんでした。

 

5 清水寅さんとの出会い

 野口さんはNHKのトークショーで「ねぎびとカンパニー」の清水寅(つよし)さんと出会います。清水さんから,次のようなことを言われます。

 

 「人と人との関係のないところに商品は動かない。これは100%言える」

 「大事なのは相手が先ということ」

 「農業に偶然はないよ」

 

 野口さんは,これをきっかけに,自分から講演やトークショーなどに動き始めるようになります。また,「ドバイでレンコンを売る」とあちこちで発言をしてくようになりました。このように様々な人に熱い思いを語っていったことで,次々とキーマンと出会うことができ,海外輸出も実現しました。

 そして,1本5000円という松レンコンのブランド価値が高まり,実際には竹ランクのレンコンが多く売れるようになり,売上高1億円となったそうです。

 

6 商品力に勝る営業力はない

 野口農園では,テレビ出演,講演やトークショー,Facebook,営業パンフレット,POP,ロゴシール,レシピシート,高級レストランへの販売,海外への輸出などを実行していますが,それらの効果が集まって高い商品力を実現しています。商品力とは商品の品質だけではなく,総合力です。

 多くの人に「これを買いたい」と思ってもらえれば,買いたたかれることはありません。

 

7 生産性の向上は自分のクビを絞める

 野口さんに機械化を勧める人もありますが,機械化によりレンコンが今の3倍収穫できるようになったら,3倍働かねばならなくなると野口さんは考えます。それは米農家が証明しています。高級外車並に高価なコンバインを使って生産面積を増やして生産量も増えたけれども,少しも利益は増えません。これを「技術の悪循環」と言うそうです。

 

8 「マーケットイン」に惑わされない

 よく「プロダクトアウトからマーケットインへ」と言われます。しかし,スーパーが求める真空パック化に対応しようとすると,生産者のコストが上がるだけになってしまいます。マーケットの要望も,その採否については見極めが必要です。

 

9 既存の認証に頼らない

 世の中には色々な認証がありますが,認証を得たら売れるというものはありません。認証機関だけが儲かるような認証制度に野口さんは反対しています。

 

10 自分はどうでしょうか

 野口農園の努力を紹介しましたが,自分の場合はどうでしょうか。商品力を磨いているでしょうか。折角のよい商品を安売りしていることはないでしょうか。私自身,検討すべきことが沢山あると思いました。