1 裁判に時間がかかる

 司法制度改革推進本部顧問会議において,当時の小泉総理大臣が 「思い出の事件を裁く最高裁」という川柳を引用しました。

 ニュースなどで最高裁判所の判決を知った時,多くの人が「ああそう言えば,昔そういう事件があったなあ」と思うように,事件が起きてから最高裁の判決が出るまで長い時間がかかることを皮肉った川柳です。

 当時から比べれば,裁判のスピードは速くなったと思いますが,世の中の動き,特に企業経営者の感覚からすると,とても速いとは言えません。

 

2 判決が出るまで21ヶ月

 原告と被告の双方に弁護士がついて証人尋問を行って判決に至るという一般的な事件の場合,平均期間が21ヶ月となっています((第8回「裁判の迅速化に係る検証結果の公表」)。

変化の激しい現代において1年後や2年後に世の中がどうなっているか,とても予想ができません。即断即決を信条としている企業経営者が,1年も2年も気長に裁判に付き合っていることはできないのです。

 

 したがって,企業が何かの紛争に巻き込まれたとしても,1年や2年かけて裁判をして解決しようということにはなりません。

 

3 どうして時間がかかるのか。

 裁判に時間がかかるのはなぜでしょうか。裁判では,原告と被告が主張を出し合って裁判の争点を整理するのに平均14ヶ月かかっていますが,この期間が長すぎます。

 原告の訴状に対して,被告が答弁書を提出し,答弁書に対して原告が準備書面で反論し,さらに被告が反論します。これを繰り返して争点を整理するのですが,このような期日が1ヶ月から2ヶ月の間隔で開かれますので,1年の審理といっても8回程度の期日があるだけです。

期日と期日の間隔が,開きすぎているのですが,これを半分にすれば,ほとんどの裁判は1年程度で終わることになります。

 

4 弁護士時間

 被告の主張に反論する準備書面を原告側弁護士が作ることになった場合,裁判官は原告側の弁護士に対し,「準備書面を作成するのにどれくらいかかりますか」と質問します。

 これに対して,ほとんどの弁護士は「1ヶ月程度お願いします」と答えます。この感覚が企業経営者には理解できないところなのです。弁護士や裁判官の時間の流れは月単位です。

 

 普通,会社で上司が部下に,「この資料を作るのにどれくらいかかりますか」と尋ねた場合,部下が「1ヶ月かかります」などと答えることはあり得ません。

 普通,「3時間です。」とか「5時間です」という時間単位で答えるでしょう。弁護士の場合,時間単位はありえず,「3日です」というような日単位でもなく,月単位となっているのです。

 

 では,実際に1ヶ月もかかって準備書面を作っているのかというと,一般的な書面であれば1時間から3時間程度です。

 3時間程度の時間を作ることは,裁判があった当日は無理だとしても,2,3日中には可能です。そして,依頼者に書面の内容を確認してもらって提出するとしても1週間もあれば十分ではないでしょうか。1ヶ月はあまりにも長すぎます。

 

 1ヶ月間という長い時間をもらってしまうと,一旦事件の記録を書架に仕舞い込み,自分の頭の中からも一度消去することとなります。その上で2週間程度経過してから,取りかかることになるのです。裁判官から指示された内容も記憶がハッキリしなくなってしまうこともあります。

これは極めて効率が悪いことであり,すぐに取りかかっていれば3時間で完成できたはずのものが,余計に時間がかかってしまうのです。

 

5 裁判が終わったらすぐに書く

 裁判所で問題点を議論して,事務所に戻ったら,すぐに準備書面を書いてしまうのが最も効率的です。裁判所から帰る道中に,頭の中に大体の論理構成ができあがる場合が多いと思います。

 

 あとは,事務所でアウトプットするだけです。調査が必要な場合は,依頼者に確認の電話などはしますが,当日か翌日までに材料がそろうことが多いと思います。

私は3日を目標にしています。3日後であれば,裁判官の記憶も新しいので,提出した準備書面をすぐに読んでもらえると思います。

 

平成15年に「裁判の迅速化に関する法律」ができてから,裁判所も迅速化に力を入れています。しかし,争点整理手続の充実については議論されていますが,期日の間隔についての言及はありません。

 

6 当事者の苦しみ

 裁判は当事者にとって,非常に大きなストレスです。すこしでも速く紛争を解決し,ストレスから解放することが大切です。人生の貴重な時間を,長々と裁判に費やすようなことがあってはなりません。

 これからも迅速な解決のために努力したいと思います。