1 裁判件数

 全国の地方裁判所の新受件数と弁護士人口を調べてみました。新受件数には通常事件の他,破産,執行などを含みます。

 

 平成3年の新受件数は約63万件で,弁護士人口は1万4000人です。その後,新受件数は増え続け,平成15年に135万件でピークとなります。このときの弁護士人口は約2万人です。

 

 ところが,新受件数はそれから減少し始め,平成27年に58万件となり,以後はほぼ横ばいとなっています。平成30年は,59万件で弁護士人口は4万人となりました。

 

 弁護士1人当たりの平均事件数を計算してみると,平成3年が弁護士一人あたり年間45件,平成15年が69件,平成30年が15件になっています。

 

 弁護士が増えすぎたのが問題だという声が多いのですが,数字が示すとおり,重要なのは事件が減りすぎたことなのです。なぜ,事件が減るのか。弁護士や裁判が市民から嫌われている,避けられているのではないでしょうか。

 

 弁護士に相談するのは,安心と納得という価値を得るためですが,弁護士がその価値を提供できていないということです。

 

2 相談することの不安

 トラブルに巻き込まれた相談者・依頼者は弁護士に対して安心を求めています。ところが,残念ながら,弁護士は不安を提供しています。

 まず,弁護士に相談すること自体が大きな不安であるということです。自分が抱えている問題も不安ですが,それ以上に弁護士に相談することが不安なのです。

 

 「相談するには誰かの紹介が必要かもしれない」「どんな弁護士なのだろうか」,「相談料はいくらかかるのだろう」,「相談には何を持っていけばよいのだろう。菓子箱は必要だろうか」,「弁護士から叱られるのではないだろうか」などなど不安は尽きません。

 

 そして,自分が今巻き込まれているトラブルの不安と,弁護士に相談することの不安とを,天秤にかけるのです。そうするとトラブルの不安よりも,弁護士のところへ行くことの不安の方が大きくなります。結局,弁護士に相談に行きません。トラブルの対処法について友達に聞いたり,あるいはネットで調べたりして生半可な対応を続けてしまいます。そうなると,トラブルはどんどんと深刻な事態になっていきます。

 

 やがてトラブルの不安が,弁護士に相談する不安よりも大きくなります。その段階で初めて弁護士の所に行くのです。相談を受けた弁護士は,必ずこう言います。「どうしてもっと早く相談に来なかったのですか」

 こんな悲劇はなくさなければなりません。

 

3 依頼した後の不安

 弁護士に相談して,正式に依頼したならば,安心できるでしょうか。実は,そんな簡単にはいきません。新たな不安のタネが増えるのです。「依頼した弁護士は頼んだ仕事をきちんとやってくれるだろうか」とか,「今日裁判があったはずだけども,どうだったのだろうか。何の連絡も来ないけど,よかったのか,悪かったのか。裁判はこれからどうなるのだろう」などの不安が次々と出てきます。弁護士に頼んだことによる不安がどんどん湧き上がってくるのです。弁護士は安心を提供するどころか,不安を与えているのです。

 

4 事務所の様子,弁護士や事務員の表情など

 また,事務所内の整理整頓ができていないと依頼者は不安になります。書類が机の上に山積みになっている事務所が少なくありません。忙しいということをアピールしているつもりかもしれませんが,依頼者が見ると,間違いなく不安になります。自分が依頼した案件がどこかへ埋もれてしまうのではないか,大事な証拠を預けても紛失してしまうかもしれないという心配が出てきます。

 

 弁護士の表情や言葉遣い,事務員の表情などにも一喜一憂します。「この前と同じ質問をされたけれど,ちゃんと分かってくれているのだろうか」ということもよくあります。

 

 安心を求めて弁護士のところへ来ているのですが,弁護士は次から次へと不安を提供しています。心配の種をどんどんどんどん提供しているのです。悲しいかな,これが現状です。そして,ほとんどの弁護士はこのことに気づいていません。

 

 求めているものと与えているものに大きなギャップがあります。このギャップを埋める努力を弁護士はしなければならないのです。