1 身元保証契約    

 会社が従業員を採用する際に,身元保証人を求めることがあります。従業員が会社に対して損害を与えた場合に,身元保証人に連帯責任を負ってもらうというものです。

 身元保証の歴史は古く,昭和8年に「身元保証に関する法律」が施行されています。身元保証は連帯責任とされており,場合によって過大な負担が生じることもあるため,法律で様々な規制がされています。

 まず,最初に身元保証契約について説明したいと思います。

 

2 期間の制限

 身元保証契約書に期間を定める場合は,最大5年間という制限があります。契約書に期限を定めなかった場合には,期間は3年となります。期間が経過する際に,再度身元保証契約を結ぶことはできますが,そのような例はあまりないようです。

 

3 金額の制限

 改正民法が令和2年4月に施行されましたが,個人の根保証契約については極度額(上限額)を定めることが必要となりました。身元保証も根保証の一つであり,賃貸借契約の連帯保証人も根保証です。したがって,個人が身元保証人となる場合には,極度額を定めないと無効となります。

 

4 通知義務

 会社が従業員の問題ある行動を把握した場合は,身元保証人に通知する義務があります。身元保証人に知らせることによって,身元保証人にも監督する機会を与えることが目的です。

 

 身元保証人は,会社から通知を受けたりして,問題ある行動を知った場合には,身元保証契約を解除することができます。ただし,この場合でも,解除した時点ですでに発生している賠償責任については,責任を免れることはできません。

 

5 保証責任の限度

 身元保証契約では,「○○が会社に損害を与えた場合には,○○と連帯して損害賠償の責任を負います」などと書かれていますが,損害額の全額について責任を負うのではなく,監督についての会社の過失,身元保証人となった事情,身元保証人がどの程度注意していたか,本人の仕事や立場がどう変化したかなど一切の事情を考慮して裁判所が定めることが法律で決められています。実際には,かなり減額されることが一般的です。

 

6 身元保証を見直しましょう

 身元保証について説明してきましたが,そもそも身元保証人が必要かという問題があります。

 

 身元保証を求めるということは,「あなたは問題を起こして会社に損害を与えるかもしれない。その場合,あなたは損害を賠償する責任があるが,あなた一人の力では賠償できないと思うから,連帯責任を負う身元保証人が必要である。」ということです。

 

 最初から,従業員に対して疑いの目を向けていますが,疑われた従業員はどう感じるでしょうか。採用が決定して,「よし,自分を採用してくれた会社の為に一生懸命に働こう」と張り切っていたのに,何か嫌な気持になりますよね。

 

 従業員が失敗したりして会社に損害を与えるのは,ある意味,当然ありえることです。その反対に,従業員の働きにより会社は利益を上げています。人間ですから,ミスがあるのも当然ですので,その都度従業員に賠償を求めていたら,意欲は落ち,パフォーマンスは下がる一方になります。

 

 横領や背任などの大きな不正の場合にのみ,損害の賠償を求めるという会社が多いと思いますが,滅多に起こることのない不正の場合の損害回復について考える前に,不正を起こさない仕組みや組織風土を作ることを優先すべきではないでしょうか。

 

 また,身元保証人を要求されても,頼める家族がいないケースもあります。そんな場合は,会社は採用を見送るのでしょうか。その人の能力や人柄を見込んで採用を決めたはずなのに,身元保証人がいないからといって不採用とするのは会社にとっても大きな損失になります。身元保証人を頼める人がない場合には,例外として身元保証人なしで採用するとしても,身元保証人をつけた人とのバランスがとれなくなります。

 

 このような考えから,最近は採用時に身元保証人を求めない会社が増えています。